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Artist Interview Vol.2 / イラストレーター 山本直孝さん / 洋服を「マステ」で描く作業は、“貼る”よりもむしろ“織る”という感覚です

パレットの絵具のように使う――
画材としての「マステ」の可能性とは

「マークスタイル トーキョー」で開催された「マステ」アート2016 SPRING展。スタイリッシュなポートレート作品を手がけたのは、イラストレーターの山本直孝さんです。まずは遠くから眺めてその絶妙な構図や色合いを味わって、ぐっと近づいてみると・・・・・・今度は意外な部分に「マステ」が使われているのに驚きます。まるで絵筆の先のように「マステ」を操る山本さんに、画材としての「マステ」の可能性について聞きました。

PHOTO:沼田 学 TEXT:永岡 綾

山本直孝 Naotaka Yamamoto
福岡県生まれ。1999年よりフリーランスのイラストレーターとして始動。企業広告、書籍、雑誌、グッズなど、幅広いフィールドで活躍中。中川ひろたか氏の絵本「しりとりレストラン」の絵や、福岡銀行のキャラクター「ユーモ」なども手がける。2015年の伊勢丹新宿店メンズ館・靴売場での展示、2015~2016年のNHKラジオ英会話のテキスト装画では、マスキングテープを使った作品で好評を博した。

【「マステ」が織りなすテクスチャー】

パリのメトロ、待ちわび顔で壁にもたれるドットタイの紳士。上質なウール地と思しきジャケットを身にまとい、煙草をくゆらせる男性。山本さんが描くポートレートは、どれもファッション誌から飛びだしたかのようにスタイリッシュ。中でも、テキスタイルの織り柄、シワ、着くずしたラインなど、洋服の表現には目を見張るものがあります。こうしたディテール、実は「マステ」で描かれています。

スーツのピンストライプやジャケットのチェック、ツイード生地さえも「マステ」で表現する山本さん。こんなふうに使いこなすまでには段階があったといいます。

「ふだんは絵具や色鉛筆を使っているのですが、そういった画材とは異なる『マステ』の色に惹かれました。とはいえ、最初はなかなか思うように仕上がらなくて。それでも『マステ』を使うことがおもしろく、部分的に使ってみたり、全体に使ってみたり、試行錯誤しました」。

やがて、色画用紙の切り絵と組み合わせた現在の手法にたどり着いたそうです。

「まずは色画用紙を切り抜き、顔、手、胴体などの大きなパーツをつくって配置します。人物の顔や髪の毛、洋服の柄などのディテールになると、『マステ』の出番。『マステ』は、ある程度の長さに切ったものをカッターマットに貼りつけておき、それをフリーハンドで切り取って、絵具をのせるように貼り重ねます」。

山本さんはそう言って、いつも使っているという道具を見せてくれました。色とりどりの「マステ」が並ぶカッターマットは、山本さんにとってパレットのようなもの。ここから、線、点、面、あらゆる形状に「マステ」が切り抜かれ、絵を彩っていきます。

しかし、ただスペースを埋めるように貼るだけでは、生地の質感は表せません。「洋服を『マステ』で描く作業は、“貼る”よりもむしろ“織る”という感覚です」と山本さん。身頃は縦方向に、襟は内から外へ、ポケットは二重に。それぞれのパーツの「マステ」は、生地の織りや仕立てに忠実に貼られているのです。

さらに、「マステ」の柄が、糸の織りなす複雑な色合いや立体感を再現します。例えば、ツイード生地に使われているのは『トライバルパターン』という柄。色のある部分と白い部分が、微妙な陰影となって効果を発揮します。

「最近は、柄物の『マステ』にアクリル絵具を塗るという方法を発見しました。『クラシカルフレーム』に白を、『ウッドフレーム』に茶色を重ねることで、無地とは違った奥ゆきが生まれます」。

【手描き×「マステ」の新境地へ】

山本さんがマスキングテープをイラストに取り入れたきっかけは、奥さまのコレクションだったとか。

「妻がいくつか持っていて、手紙の封などに使っていました。それをちょっと借りたとき、いろんな色柄があることを知り、これは使えるなと思いました」。

今では、山本さん自身が数百種類のマスキングテープを集め、さまざまな画材とともに机の上に並べているそう。「11歳になる娘が僕のところに借りにくるくらいです」と話します。

コンピューターを駆使して線を引いたり着色したりするイラストレーターも多い中、山本さんはひたすら手を使って描きます。

「頭でああしようこうしようと考えるとき、コンピューターは浮かんでこないんですよね。もともとデジタルなことが苦手なだけなのですが(笑)」。山本さんの作品に漂う独自のニュアンスは、こまやかなアナログ作業によって醸しだされるものなのかもしれません。

制作手段は「手描き」に限定されていても、イラストレーターとしての山本さんの引き出しはとても豊かです。「マステ」アート展にて披露されたシックなテイストだけでなく、「マステ」で部分的に着色したポップなものから、絵具を使ったぬくもりあふれるタッチまで。広告や挿画といった紙の上の仕事だけでなく、マグカップのイラスト、モノレールに絵を描くプロジェクトなど、多方面からの依頼が絶えないのもうなずけます。

新たな作品の構想について、「ポートレートでは、千鳥格子を『マステ』で描けないかと研究中です。何度かチャレンジしてみたのですが、まだ納得いくものができていなくて。また、線画と組み合わせたり、絵具と組み合わせたり。これまでにない『マステ』の使い方もありそうです」と語る山本さん。その多彩なテクニックと「マステ」を掛け合わせた新境地を見られる日が、今から楽しみです。