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Artist Interview Vol.4 / 作家 船原七紗さん / わたしが「マステ」でやっていることは、基本的には油絵と同じなのだと思います

油絵のようにひたすら重ねて――
「マステ」でなければ表現できない色

七色にきらめく水面、その向こうを悠々と泳ぐ鯉の姿。そのすべてが「マステ」の色だと気づいたときのインパクトは、言葉にするのが難しいほど。「モナリザ」や「最後の晩餐」も、何十種類もの「マステ」を貼り重ねて描かれているのです。「マステ」アート2016 SPRING展で異彩を放ったこれらの作品を手がけたのは、作家の船原七紗さん。「マステ」で描くことのおもしろさについて語ってくれました。

PHOTO:沼田 学 TEXT:永岡 綾

船原七紗 Nasa Funahara
武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。大学在学中の2013年からマスキングテープを使った絵画制作をスタート。不動産関係の会社で仕事をする現在、家具や壁のデコレーションをはじめ、住まいの装飾にマスキングテープを用いるなど、ユニークな提案をしている。同時に、個人の創作活動としてマスキングテープによる絵画を描きつづけ、展覧会への出品なども行っている。

【名画と「マステ」の意外すぎる組み合わせ】

誰もが知る名画の模写なのだけれど、何かが違う……。そう感じて近寄ると、思った以上にたくさんの色が混じり合い、和紙の質感が重なり合い、複雑な表情をしていることがわかります。船原さんが「マステ」で描く絵は、こんなふうに遠目で眺めたときと近距離で見たときの印象が異なります。

「名画を再現するときは、それぞれの画家の持ち味を大切にしています。そのまま模写するというよりも、その作品の最も強いイメージを残す、という感じでしょうか。例えばダ・ヴィンチの『モナリザ』では、表情にいちばん気をつかいました。また、フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』では、その光と影の美しさを描こうと努めました」と語る船原さん。

一方で「背景は、『マステ』の柄を見せたいという思いもあり、思いきり遊んでいます」といたずらっぽく微笑みます。例えば、少女の周囲は花模様の「マステ」で埋めつくされ、すっかり独自の世界に置きかえられています。

そもそも船原さんが「マステ」で絵を描きはじめたのは、美術大学で学んでいたときのこと。

「油絵学科の授業の課題で、人物画を描くことになりました。モチーフは、世界でいちばん有名な顔『モナリザ』に決めました。『表現方法は問わない』というものだったので、あえて油絵以外の手法でと考え、『マステ』を選んだのです」。

この意外な組み合わせに、先生や同級生も驚いたといいます。しかし、船原さんにとって、これは奇をてらってのことではなかったよう。

「油絵は、色を少しずつ重ねて1枚の絵を仕上げていきます。わたしが『マステ』でやっていることは、基本的にはそれと同じなのだと思います」。船原さん独特の色彩は、油絵のテクニックがあってこそ。「マステ」の透け感を計算しながら貼り重ねることで、表されるものだったのです。

以降、「マステ」に魅せられたという船原さん。重ねることで深みを増す色、さりげない遊び心をひそませるおかしみ、そして絵具では醸せない違和感。「マステ」で描かれた絵には、他にはないおもしろさがあります。

やがて、名画の模写のみならず、オリジナルの作品づくりも行うように。今回の「マステ」アート2016 SPRING展では、自身のかねてからの創作モチーフである「鯉」に「マステ」を用い、冒頭の作品が誕生しました。

【絵画に「マステ」、インテリアにも「マステ」】

船原さんは、昨春に大学を卒業したばかり。現在、不動産関係の会社で働きながら創作活動をつづけるという忙しい毎日を送っています。

「今は、『マステ』による絵画制作が中心です。仕事をしながらなので、鉛筆と「マステ」さえあればすぐに取りかかれるという気軽さは、油絵にはないメリットですね。また、展覧会などに出品する際も、これまでの作品を見てくださった方から『ぜひこの手法で』といわれることが多く、マスキングテープを使ったアートを求められる機会が増えています」。

さらに、仕事でも「マステ」に関わるシーンがあるそう。「部屋をカスタマイズするためのアイデアを考えているのですが、ショールームの壁に『マステ』で絵を描くなど、インテリアとしての『マステ』の楽しみ方を提案することも。数人のスタッフでテーマや図案を考えて壁いっぱいに絵を描くなどしています」。こう話す表情から、充実した日々の様子がうかがえます。

学生時代の「マステ」との出会いが、作家として、そして社会人としての今につながっている船原さん。「小さな作品をつくるのも楽しいですが、大きな壁画などにも挑戦したいです」と、創作意欲に満ちています。

もともと好きで集めていた「マステ」が、表現の手段となり、仕事の相棒となり、今では1000種類以上をコレクションしているとか。「絵を描くときに使いやすいのは、ひとつのテープの中に含まれる色の彩度や明度がそろっているものです。でも、絵に近づいたときに『ん?』となるポイントをつくるため、『ネイチャー/ベビーパンダ』のようなアイコン的な柄もちょこちょこ集めちゃいますね」と話します。そのみずみずしい感性が、「マステ」の未来を広げていきます。

※ 船原さんの創作活動やお仕事では、「マステ」以外のテープが使用される場合もあります。