そんな生活も5年もつづくと行き詰まります。本当にやりたいものはなんだろうって悶々としました。そんな中で自分の創作活動を始めて生まれたキャラクターが「かえる先生」です。これがそれなりに支持されて、Tシャツの仕事と二足の草鞋でフリーランスになることに。ところが30も半ばを超えると、やっていけなくはないけれど、果たしてこれでいいんだろうかと再び不安が頭をもたげました。
ミニマルで、想像力をかき立てるものを
自分なりのスタイルをつくろうと2年近く試行錯誤しました。まずは自分と向き合い、心から好きものを探したんです。絵はもちろん、服や食べるものも。
僕はシンプルなものに惹かれるんだと気づきました。
学生時代に惹かれたアートも60年代。現代アートが花開いた時代です。頭の片隅にずっとあったのはドナルド・ジャッド。ミニマル・ムーブメントを代表するアメリカの美術家です。ただの四角い箱を並べただけの作品ですが、無性に想像力をかき立てられました。
目指すべき方向がクリアになってからがまた、大変でした。なんでもそうでしょうが、削ぎ落とすことほど難しいことはない。なるたけ線を入れないシンプルなタッチで、「いかに人に想像させることができるか」を考えました。
ボツの山からみつけた正解
眉と鼻をTの字で表現したこのイラスト、実はボツにしたひとつでした。個展の予定が迫って、あせってボツの山をひっくり返して、いいかもって思ったんです。「かえる先生」や昔の作品といっしょに並べたんですが、搬入して飾りつけた作品をしげしげ見ると、確かにいい。来場者にも好評で、これはいけるかもと自信を深めた矢先に雑誌の『ポパイ』から連絡をもらって、表紙になった。憧れの雑誌だったから、本当、うれしかったです。
今にたどり着けたのは、ひたすら紙と鉛筆を消費したからだと思います。そうすることで、頭の中にある何かが形になっていくんです。
仕事道具は三菱鉛筆の「ハイユニ」の3Bと呉竹の「筆ごこち」。これに最近、ペンケースが加わりました。昔ながらの芯材が入った、いわゆる筆箱です。
最近は打ち合わせの合間の喫茶店でラフを描くこともあります。くたくたのペンケースじゃ持ち運ぶ時に鉛筆の芯が折れちゃいますから。小学生みたいと言われるのがちょっと恥ずかしいんですけれどね(笑)。
数年前から、一日一イラストを描くことを自分に課しています(日々イラストをアップしている長場さんのインスタグラム)。
いろいろな方と作品をつくり上げていく作業とはまた違って、自分の描きたい絵を描く時間を大切にしています。
2016年はロンドン、ニューヨークと立てつづけに海外で個展を開きました。まずまずの手応えがあったけれど、いかんせん、言葉の壁を感じました。子どもの頃は話せたんですけどね。やっぱり養子になっておけばよかったって、少し思いました(笑)。
長場さんが全編にわたりイラストを手がけた書籍『みんなの映画100選』(オークラ出版)
「かくも楽しい、手帳の世界」をテーマにしたEDiT手帳 2017メインビジュアルのイラスト
Profile
- 長場雄 Yu Nagaba
イラストレーター
1976年東京生まれ。東京造形大学卒業。広告、書籍、アパレルなど幅広く活動中。主な仕事に、雑誌『POPEYE』表紙イラスト、TOYOTA LINEスタンプ、東京メトロ マナー広告ポスター、BeamsT×GhostbustersコラボTシャツなどがある。
http://www.nagaba.com/