川原田大地さん / サービスデザイナー
「グラフィックデザイン」、「Webデザイン」、「UXデザイン」......時代の流れやテクノロジーの進化とともにデザイン領域が多様化、広義化してきている現代、「サービスデザイン」と呼ばれる分野があることをご存知ですか?
モノや形をつくるデザインとは違い、サービスデザインは、利用者に価値のある製品やサービスを実現するために、それに関わる人やインフラ、コミュニケーションなどの仕組み自体をデザインすること。デザインのみならず、ブランディングやマーケティングなどのビジネスの知識や観点、実行力といったスキルも必要になります。
一言では形容しづらいこの分野で活躍する株式会社コンセント(以下、コンセント)の川原田大地さんに、サービスデザイナーとしての仕事や、EDiTの週間バーチカルをどのように仕事に活用されているかをお聞きしました。
PHOTO : 吉崎貴幸
“サービスデザイン”とは、ビジネスのあり方を再定義すること
取材に訪れたのは、豊かな常緑樹が茂る路地の先にある、打ちっぱなしコンクリートのシックな建物。コンセントが運営する恵比寿のこのコミュニケーションスペース「amu」にて、川原田さんは物腰やわらかな声で語ってくれました。
「“サービスをデザインする”というと、何か消費者に向けた具体的なサービスを提案する仕事だと思われがちですが、僕たちの仕事は、“すべてのビジネスは顧客へのサービスである”という考えのもと、ビジネスのあり方を再定義し、サービスの仕組み全体を設計することです。サービスのコンセプトを検討する段階から関わることもあれば、現状のサービスの課題定義のみを担当することもあります。コンサルティングにも少し似ているかもしれませんね」
たとえば以前手がけたプロジェクトでは、空港内のサイン(案内表示等)を改善するための調査とそれにもとづいた改善方針の策定を、視覚デザインとユーザー体験の観点から行ったそうです。そのほか、医薬業界向けのWebサービス開発プロジェクトのコンセプト策定や、大手家電メーカーのデジタル施策検討プロジェクトで、「そもそもユーザーは家電をどのように購入しているのか?」を調査するために、購入者の自宅へインタビューに伺ったことも。
「基本的には、仕事はすべてプロジェクト型で進行し、クライアントからご相談をいただくところから始まるのですが、その時点では“こういう新しいことを始めたいのだけど、どうしたらいいんだろう?”というざっくりとしたご相談をいただくことが結構あります。そこから何をゴールと定義して、どのようなアプローチで推進するのか。そういう根本の部分を考えるのがとても大変です。でもその分、自分の裁量も大きく、やりがいも感じています」
デザインの対象は「モノ」から「人」へ、そして「社会」へ
創業当時はエディトリアルデザインがメインだったコンセントは、商業出版物等のデザインを通してこれまで培ってきた「伝える」や「編集する」ということの専門性を生かし、そのデザインの対象を「モノ」から「ユーザーの体験」へと広げていきました。
インターネット、モバイル、AIなどの普及によって複雑化した情報社会で、ユーザーにとってのより良い体験をデザインする「UXデザイン」が一般的な言葉になりつつある今、さまざまなUXの連続であるサービス体験と、それを持続的に実現するための仕組み全体にまでデザインの対象領域を広げたのが「サービスデザイン」。欧州を中心に普及したこのサービスデザインによるアプローチは、ビジネスの領域のみならず、すでに社会問題へとその射程を広げています。国内でも民間企業と公共機関の双方で注目され、日本の政府においてもサービスデザインを導入・推進する動きが見られつつあるそうです。
さまざまなイベントが行われるコミュニケーションスペース「amu」は、平日はコンセントのワークスペースとしても活用
「サービスデザインは、具体的な課題を解決することだけに役立つのではなく、そもそもの問題を発見したり、問題を分解して課題を定義したりする際にも有用なアプローチです。そういう意味では、適用できる領域は無限にあると思っています」
川原田さんが所属するコンセントのサービスデザインを専門領域とする部署では、プロジェクトは基本的に部署横断でメンバーがアサインされるそうですが、その中での川原田さんの役割は、サービスデザイナーとして調査・分析を担当することもあれば、プロジェクトマネージャーとして全体を推進・管理することも。そのほかワークショップのファシリテーターを担当するなど、プロジェクトによってさまざまなのだそうです。
「明確な答えのないプロジェクトが多い中で、複数のことを並行して動かしているので、限られた時間でいかに質の高いアウトプットができるかを常に考えています」
生産性を上げるため、常に必要な時間を意識する
調査や分析など、ともすれば膨大な時間を費やしてしまいそうな業務を効率的に行うために、時間を常に意識しているという川原田さん。
「自分の業務に必要な時間を予め確保することはもちろんですが、打合せを入れるときなどに“他人の時間をもらっている”と自覚することも大切だと思っています。EDiTの週間バーチカルは週の予定が一覧できるので、1日のうちで時間をどのように使うかだけではなく、週単位でタスクに優先順位を付けながら、全体的な視点で設計できるのがいいですね」と、毎朝手帳を開いて、その日に使える時間や週のタスクを確認しています。
【ウィークリーページ】
① 日付下のスペースには自分だけで行うタスクを記入
② 30分単位の時間軸に、予定は実線、移動時間は点線で記し、ひとつの予定にかかる所要時間をひと目で把握
③ 3分割のメモスペースには、その週のタスク、プライベートのTO DO、誰かへの依頼など忘れてしまいがちなことを記入。過去の自分の活動や考えを振り返るときにも便利
④ メモスペースには、提出するものや締め切りなどをチェックボックスで
※この使い方は、2018年版(平日重視タイプ)を使用した例です。
インプットすべき内容を把握するために、
プランニングページを活用
川原田さんが仕事をする上でもうひとつ心がけているのは、“視野を広く持つ”ことだそうです。
「自分や周囲の人が置かれている環境に対して、常にそのあり方を疑う視点を持つこと。多くの人が当たり前のこととして受け入れ、いつの間にか思考停止になってしまっている体験は、本当に“正しい”あり方なのか。そもそも、その体験自体が本当に必要なのか。常に広い視野を持って自由に発想できるように、そして思考や視点が固まらないように、幅広い世代の人から刺激を受けたり、読書をしたりしながら、さまざまな見方を取り入れるようにしています」
そのためには忙しくてもインプット時間を毎日必ず確保するという川原田さん。月間プランニングページでは、その月のアウトプットとそれを実行するために必要なインプットを月初めに書き込んでいるそうです。
【月間プランニングページ】
① テーマ欄には、登壇するイベントの発表テーマや担当プロジェクトの中間成果物など、その月にアウトプットしたいことをリストアップ
② テーマにもとづき、身に付けておきたい知識や情報が載っている書籍をリストアップ
③ レコーディング欄には、担当プロジェクトごとの提案プランをメモ。簡易性と機密保持のため、企業名は記号で記しておく
愛用の万年筆やノートが、思考の外部化を助けてくれる
日々の業務ではデジタルを駆使していながらも、仕事や毎日に欠かせない愛用品といえば、どれも長く使っている思い入れのあるものだという川原田さん。手帳やノートの相棒として使っている筆記具も、吟味して選んだ透明軸の万年筆です。
「万年筆は、手に負担がかからないということもありますが、使えば使うほど自分のくせが反映されて育てることができるし、自分の好みのインクを入れられるので、書くこと自体が楽しく感じられますね。EDiTの週間バーチカルは、裏抜けも気にならないし、滑らかな書き心地でこの万年筆との相性もいいんです」と、目に優しいブルーグリーンのインクが印象的な万年筆を、手帳の上で軽やかに走らせます。
そして、さらに思考を発散し、探索を深めたいときには、EDiTのアイデア用ノートが使いやすいのだそう。
「もともと工業デザイン系の大学に行っていたので、スケッチブックを持ち歩く習慣がありました。手書きで思考を外部化することで、情報が整理されると同時にそこから新たな発見が得られ、さらに思考が発展する、といった効果があると感じています。これはデジタルでは得にくいものですね」
アイデア用ノートにマインドマップを書き込んで、進行中のプロジェクトのアイデアを視覚化
デジタルとアナログを自分に合ったやり方で使い分けながら、「もっと質の高いアウトプットを」とクオリティを追求していく川原田さんの未来は、目に見えない価値をビジネスとして形にしていくサービスデザインのように、これからも自らの手でより良い方向につくりあげられていくのでしょう。
Profile
- 川原田大地 Daichi Kawaharada
サービスデザイナー
大手ユニットハウスメーカーでの新製品設計開発、デザイン事務所でのデザインコンサルティング経験を活かし、2014年より株式会社コンセントでサービスデザイナーとして従事。クライアントワークとして新規事業開発や調査業務、サービスコンセプト開発など多様なプロジェクトを手掛け、アイデア創発を目的としたワークショップのファシリテーターも務める。