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使い方

「描くこと」がくれた勇気
ペンを走らせ明日へつなげ

日高由美子さん ビジュアルトレーナー /アートディレクター

「描くことは、私に勇気をくれた」----。アートディレクターとして着実にキャリアを積み上げ、2015年には"描いて伝える"ことにフォーカスした事業「えがこう!」を立ち上げた日高由美子さん。

2019年2月に銀座・伊東屋でおこなわれたEDiTの方眼ノートの発売記念イベントでは、グラフィックレコーダーとして、また講師として活躍してくれました。

その日高さんが、描くことに託す思い、ノートに秘めた決意とは。
TEXT : ごとうあいこ PHOTO : 吉崎貴幸

“自分会議”で
すべきことを洗い出す

アートディレクターとして30年以上第一線を走る日高由美子さん。近年は、ビジュアルコミュニケーションを軸とした「えがこう!」を主宰。グラフィックレコーダーとして、また企業研修やワークショップの講師として、日本各地を飛び回っています。

そんな日高さんのワークスタイルは、「目前のTO DO から対応! 秒単位で動く」こと。仕事の幅が広く、それぞれ求められる役割も違う中で、どう整理しているのか尋ねると、「もう、これが欠かせないの」とEDiTの方眼ノートを見せてくれました。

笑顔で方眼ノートを見せる日高由美子さん

「このノートを私、『自分会議手帳』と呼んで、毎朝これにTO DOを書き出しているんです。出張が多いので、場所と日付、それから縦軸、横軸と4分割にし、マトリックス表をつくるんです。そこに、重要度と緊急度をランク付けした上で、TO DOを書き入れます。たとえば重要度が高く緊急のものは、“締切”や“打ち合わせ”など、重要度は高いけれど緊急でないものは、”ガス代の支払い”とかね。休みの日は、あえて、重要度が低く急がないものから手をつけたりするんですよ。そっちの方が、生きていく上で大事なことだったりするので(笑)」

予定は公私を分けない
重要なことは色ペンで

「このメソッドを始めたのは、7〜8年前から」という日高さんは、これまで使った手帳やノートの中でEDiTの方眼ノートが「一番いい」と話します。

「方眼のやさしいブルーの色味、薄さがちょうどいい。マトリックスを描くのに方眼フォーマットは最適ですね。タイトルスペースがある点もすごくいいです。食事の内容も絵で記録するのが習慣になっていますね」

仕事とプライベートのTO DOは分けないけれど、特に忘れてはいけないことは色ペンで書くのがポイントだそう。そして、必ずササッと“人の顔イラスト”を入れるのもこだわりだと言います。

「なんとなく“人”がいるとうれしいんですよね(笑)。“急げくん”とか“休めくん”とか、呼んでいます。髪の毛を少し増やしたり、スライムっぽくしたり、毎日変化させて描いているんです。これが、表情を描き分ける練習にもなっています」

方眼ノート:TO DOと日記をビジュアルで記録

日高由美子さんのEDiTの方眼ノート

① タイトルスペースに日付と場所を書く

② 4分割し、上下の縦軸で「緊急度」、左右の横軸で「重要度」の振り幅をつけ、TO DOを仕分けして記入

③ タスクを見守る「人」がいて、ビジュアル化するのが日高さんのマトリックスの特徴

④ 日記やメモのスペース。右下の半円にはその日の食事内容を絵で記録

⑤ 方眼ノート用には、ぺんてるのエナージェル インフリーがお気に入り

アイデア用ノートで
流れをつかむ

日高さんといえば、講演会やイベントの会場で、大きな模造紙に向かい、迷いのないマーカーさばきでトーク内容を描いて記録するグラフィックレコーダーとしての姿が印象的。

一方、自身が主宰する「えがこう!」では、“描くこと”でコミュニケーションの幅を広げる活動に注力。情報共有や会議の円滑化を促進するためのスキルを養成するセミナーや、仕事に活かすためのノウハウを学ぶワークショップも精力的におこなっています。

20192月におこなわれた方眼ノートの発売イベントでは、佐藤ねじさんのノート術トークをグラフィックレコーダーとしてリアルタイムでわかりやすく可視化し、4枚のシートに記録

グラフィックレコーディングに続き、後半はワークショップ「仕事に役立つかんたんイラスト術」講師として、1人二役で活躍

そのワークショップを設計するのに愛用しているのが、EDiTのアイデア用ノート。流れを細かく構築しながら書き出して練っていくことが習慣化しています。

ワークショップの構成がイラストを使って細かく書かれているアイデア用ノート

「これは一生使いたいノート!」と大絶賛の日高さん。

「ノート面がドット方眼な点がとてもいいです。自由に使えるし、緻密に描くこともできる。横長ノートはこれまでも使っていたのですが、EDiTのアイデア用ノートに描き始めたら『もうこれしかない!』と思うくらい惚れ込んでしまいました(笑)。アイデア用ノートにまとめていくと、自分の仕事がより大切なものになる感覚があります」

アイデア用ノート:ワークショップの組み立て&アーカイブに

① テーマ欄には必ず案件名を書く

② 当日の構成やボードをイメージしながら、細かく組み立てていく

③ 日付や天気も記入。「こういう欄があると忘れず書けるのでありがたい」と日高さん

④ 付属のふせんシートの裏にマスキングテープを貼って携帯。必要な時にサッと切って使う

「アイデア用ノートは、ワークショップのアーカイブとしても残すつもりでキッチリ書いています(笑)。また、ページの後方はマーカーの色見本帖としても活用しているんですよ。紙の色も普段使う模造紙と近いので、実際に描いたときと印象が変わらなくて重宝しています」

グラフィックレコーディングには、こだわりのドイツ製マーカーを使用。その色見本帖としてもアイデア用ノートを役立てて

“描くこと”で得た勇気
ノートがくれた自信を糧に

ノート愛が深く、とても楽しそうに、お気に入りの理由と魅力を熱っぽく語る日高さん。実は、意外にも「話すのが苦手だった」というので驚きました。けれども「ノートがあると話せるんですよ。手元に置くだけでも」とニッコリ。

「実は、就職の面接であがって何も喋れなかったことがありました。でも、泣きそうになった瞬間、学生時代に描いた作品を持っていたことを思い出して、面接官にそれを見せたら作品の説明ができたんです。その時にモノがあるってすごく強いんだって実感しました。言葉に詰まっても助けてくれる。『私には絵が、描くことがある』っていう勇気や自信がこの面接でついたようです」

日高さんが大事な局面で“ノートや自身が書いたものを手元に置く”という習慣は、今でも続いています。

複数のペンを持ちながら、ほんの数分でワークショップの構成がどんどん立体化されていく

「エッジって何?」から
はじまったモヤモヤ期

就職後、転職や結婚・出産を経たのち、デジタルマーケティングを主軸とするプロダクション・エージェンシーの株式会社TAMで、長年アートディレクターとして活躍してきた日高さんでしたが、近年はあるプレッシャーを抱えていたと言います。

「TAMという会社がね、昔から一貫して『会社に頼らず自分のエッジを磨け』というところなんです。50歳を超えたころに、社長から『もうちょっと本気で自分のエッジ磨かなあかんで』とも言われたんですけど、逃げ切れるかもと思っていた部分もあって」


ワーキングマザーでもあった日高さん。娘さんが幼いころのやりとりもスケッチブックを使い、イラストを織り交ぜて

そんな折に、制作したWEBサイトのコンテンツ企画が打ち切り。「それが、ものすごくショックで悲しかった」と日高さん。社長の言葉も重なり「自分のエッジって何?」と自分自身と真剣に向き合う日々が始まりました。

書くことで見えた
新しい挑戦の扉

「まず街を歩き回ったけれど、何も見つからない。そこでノートを買って、自分のことを書き出していったんですね。自分のエッジについて考え、やりたいことや強みなど、とにかく思うままにどんどん書いたんです。そうするうちに、自然と、これまで誰にも言えなかったことや、辛いこともノートに吐き出すようになりました。まさに、自分自身を棚卸ししていく感覚です。ノートの冊数もどんどん増えて、最終的に、『私は、誰に、何ができる?』ということを、突き詰めていったんです」

Webコンテンツのラフスケッチのビフォー&アフター。アイデアがより具体的に研ぎ澄まされていくのが分かる

自分ができることを誰かに押し付けるのではなく、“自分は誰に何ができるか”という答えを自分の内側からノートに吐き出し、気付くことができたという日高さん。

「『描くことで、仕事が楽しくなるし、早くなるよ』ということを伝えたくて。私自身が仕事でやってきたことは、クライアントに説明するときに“絵でわかりやすく効果的に見せること”なんですよね。絵を描くと、わかりやすいし、イメージの共有がしやすい。理解を深める、問題解決を図る、時間短縮することもすべてスムーズになる。コミュニケーションツールとして“絵を描く”ことは、ビジネスでも有用だと思ったんです」

苦しみ抜き、ノートに書き出す時間を積み重ねて得たことが、新しい挑戦の力強い後押しとなり、2015年に「えがこう!」を立ち上げました。

アイデア用ノートに記されている「クリエイティブマインド10ケ条」のうち「Be visual」が偶然にも「えがこう!」のキャッチコピーと一致していたことも、アイデア用ノートを気に入っている理由のひとつ

変わっていく可視化スキル

「依頼される企業研修でも、以前は、“資料をきれいにまとめるスキル”が求められていました。それが今は、“ゼロベースで何かを考える時のスキル”として、『絵を描く力を付けたい』というオファーがものすごく増えているんです。“収束”じゃなく、“拡散”する方向に絵を使う。まさに、ビジュアルコミュニケーションです。昔と今では求められるスキルが違ってきていますね」

注目度高まる
“グラレコ”で飛躍

日高さんの活動のもうひとつの柱、グラフィックレコーディング(グラレコ)。そのきっかけは、Webサイトのコンテンツ制作の過程にありました。これまで意識していなかった日高さんの仕事術が、まさにこの“描いて記録する”というグラレコと同じだと気づいたそうです。今では週に1〜2本ペースで、企業や講演会主催者からの依頼があるほど、引く手数多に。日高さんは、全国各地へと足を運んでいます。

左:グラフィックレコーディング時に必ず身に付けるウエストポーチ / : グラレコやセミナーに欠かせない、ペンやタイマー、指輪型リモンなどのツール

次世代を見据えて
“描くこと”を伝えたい

そんな日高さんの夢は、子どもたちに「えがこう!」の魅力を伝えていくこと。

「子どものうちから、ビジュアルコミュニケーションができるといいのかなと思います。以前、中学校で仕事をしたときに、家庭科の先生が調理の工程を板書したんですが、子どもが冗談で『先生、それは玉ねぎじゃないよ』と言ったんですね。それで先生が、『やっぱり私は絵が下手だから』とおっしゃったんですが、ここで大事なのは、調理の工程がわかることです。玉ねぎの絵がうまい・下手ではないんですね。伝えるための絵は、うまく描く必要はないんです。伝達するスキル=上手に絵を描くことではありませんから」

積極的に学ぼうとしている人たちにはもちろん、そこにまだ届いていない人たちにも「えがこう!」の真髄を届けることを今後の目標に掲げる日高さん。大きな夢を手に、ペンを持って走り続けます。

Profile

日高由美子 Yumiko Hidaka
グラフィックファシリテーター/ビジュアルトレーナー /アートディレクター

株式会社TAMにてアートディレクターをつとめ、平行して「描く」ことを仕事や活動に生かすことを勧める「えがこう!」を主宰。自身もグラフィックレコーディングを行いながら、企業研修やオープンのセミナーで、「描くこと」をベースにした、仕事に生かせるビジュアル構築をトレーニングする。
Web : egakou.com
Facebook : @egakou