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MIC*ITAYAミック・イタヤ

それぞれが、
新しい神話をつくるために。

2019年、平成に終わりを告げたこの年は、「漫画の神様」手塚治虫の没後30年でもある。代表作であり、ライフワークとしていた「火の鳥」により、自身の神話の創造を試みた手塚治虫は、文字通り、そして今もなお「漫画の神様」である。

「神様」が不在だった平成の30年間、漫画は皮肉にも「神様」が失敗したアニメーションという転生を経て、「コンテンツ」として世界的な地位を確立するに至った。漫画が人々に夢を与え、人生を語り、そしてスマートフォンに姿を変えてもなお、愛される「コンテンツ」であることに変わりはないが、ひとつだけ、大きく変容したことがある。

平成の読者たちは、気づいているのかもしれない。「大衆娯楽」だった漫画から「大衆」が外れ、「それぞれの」娯楽になったことを。

僕たち/私たちを主語にした「新しい神話」をつくろう、という一貫したスタンスのクリエイションを続けているアーティストがいる。ミック・イタヤ氏である。

「地域に伝わる民話・民芸は、全世界で成立していること。日本に限らず、いろいろな場所で生まれるストーリーをもっと知りたいと思っています」とイタヤ氏。「『新しい神話』とは、きちんと語り継げるものとして成立させよう、生きていこうよ、という想いも表しています」。イタヤ氏の代表的なモチーフである天使やユニコーンは、一見すると“輸入された”「神話」のソレである。が、ここで気づかなければいけないのは、「私たちが、私たち自身の『神話』をイメージできない」ということだ。

今回のマークスタイルトーキョー渋谷スクランブルスクエア店オープンにあたり、「スターピッド」というモチーフを中心にした「天使が降ってくる街」というコンセプトを立てた。「『渋谷スクランブルスクエア』という高層ビルを象徴して、“降ってくる”と形容していますが、天使はどこにでもいる存在。かつての日本人がモノや場所に宿るさまざまな存在を『神様』と気軽に呼んだように」。

氏の「スターピッド」も同様に、その始まりは読書の際に居眠りしてしまったときでも、「どこまで読んだのかわかるように」という「栞(しおり)の神様」がベースになった「ブックマーク・エンジェル」だ。イタヤ氏のクリエイションは、日常のふとした時に感じられるキラキラした瞬間を丁寧に掬い上げ、「嚙み砕いて栄養にするように」モチーフに落とし込む。「人間は、自分のイマジネーションを形としてつくり上げます。『こうなったらいいな』という想いを具現化する力があるのです。いま・ここにあるモノは、だれかが想像したものですよね」と語る。

「現代アート」は、作家自身の感受性で「いま・ここ」を吸収し、ある美しさや複雑さを伴ってアウトプットする。が、混迷する世界を映し出すかのように、難解な背景を前提としてハイコンテクスト化した結果、「現代アートは難しい」と敬遠される側面は否めない。

イタヤ氏特有の艶やかな表情を湛えた「ソランジュ」「ユニサス」たちが、愛や希望をシンプルに肯定するのは、妬みや憎しみを「なかったもの」とするのではなく、「それぞれがその場所で何を思い、どう生きていくか。ということを考えたら、素敵なモノを【ステキ】と言える世界を肯定したい。ネガティブな感情は、それはそれで具現化しますから」。

「それぞれ」という多様性と、それぞれの「個」の中に存在する多様性。イタヤ氏が見せる世界は、それらを包括するための「新しい神話」なのかもしれない。

とある芸能人が懇切丁寧な態度で接したら「神」対応と称賛し、スマホにあり続ける大量の元カレ画像を、メモリが「穢れる」と削除する。私たちは見えないモノに宿り、また私たちの間を行き来する「神聖性」を日常的に口にしている。あと少しのイマジネーションを膨らませて、イタヤ氏が描き出す「私たちの」新しい神話を、見て想像して感じてみよう。

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