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梶川能一カジカワ・ヨシカズ

イマジネーションが、
唯一無二の画法にたどり着いた。

アートにおける「オリジナリティ」や「ほかにない、なにか」、は、言うまでもない必須項目である。視覚的な欲求を満たしながら、驚きを与えたり、疑問を投げかける。

ペンを手に取り始めた幼少期の「楽しい」「楽しませたい」という原体験と、自身のイマジネーションを「独自性」「唯一無二」の技法で昇華させるアーティストがいる。「半立体色彩画」を生み出した梶川能一氏である。

動物や日常にあるなにげないモノをテーマにし、独創的な画法を駆使してポップなイメージをつくり上げる。「常に新しい発見を得ようと、試行錯誤を繰り返しています」と梶川氏。そのスタートは、“子どもの落書き”から始まり「とにかく絵ばっかり描いていました」と、その興味は最初から平面の制作にあったという。対象物は、生活の中にあるありふれたものから、頭の中にあるイメージまで。「もともと細密画が好きで」と、その情熱をより細かく描き込んでいった。梶川少年は写実的な「リアリティ」ではなく、イマジネーションを追求した。「あくまでも頭の中の世界で、楽しませたいと思っていました」。

10代後半から、バックパッカーとして世界約30ヵ国をめぐり、オーストラリアではアボリジニの点描画に触れ、フランスでは一版多色刷り銅版画に出会った。「僕のやりたいことと相性が合っていた」という一版多色刷り銅版画は、帰国後も制作と技法の研究を続けた。「版画はインクをのせて紙に転写します。そのインクが盛り上がるところから着想を得て」現在の「半立体色彩画」につながったという。

この「半立体色彩画」を制作するにあたり、ゼロから開発した画法がある。自身の名を付けた「よしかづ画法」だ。「ほかに類のない」この画法は道具から自作し、素材のアクリル絵具は画法に合わせて“調合”している。もちろん、すべて「企業秘密」だ。雑誌・テレビ番組の取材に応じても、撮影NGまたはぼかし入りを条件にする。「“オリジナル”の概念が希薄になっている今の時代、少し見せただけでも、あっという間に広がってしまいます。いずれ本にして発表できればと思っていますが」と梶川氏。

自然界に生息する生き物全般を愛し、アートの対象としている梶川氏。立体的に盛り上がった絵具のタッチが特徴の「よしかづ画法」は、体毛のない生き物の表現に適さない。が、常に新しい挑戦を信条とする梶川氏は、今回「マークスタイルトーキョー」のために、蟹の表現に挑戦した。「出来上がりのイメージをつくり、それから表現をつくります」。頭の中でイメージがクリアに存在しているときは、自動的に手が動き、寝ずに作業を続けることもあるというが、モヤモヤと定まらないときは「描き始めて、別の見え方を発見してそこからまたイメージが湧くこともあります」。「甲殻類は初めての試み。画法そのものがオリジナルですから、完成したときの達成感は何物にも代えがたいですね」と語った。

「理由のあるカタチに惹かれる」という梶川氏。動物たちに強い思い入れがあるのも、「自然がつくり上げたカタチは、それだけで美しいから」。また同時に、ハサミなどのシンプルな道具にも心惹かれるという。「動物の部位にも同じような美しさを感じます。ちょっとしたフェティッシュですね」と笑う。梶川氏は、常に新たな「カタチ」を発見し、「半立体色彩画」としてアートに昇華していくだろう。

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