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YUYA WADAユウヤ ワダ

佇まい・質感をともなった
「NEOカワイイ」の脅威。

もはや世界共通語となった「KAWAII(カワイイ)」は、日本文化を象徴する概念の一つとなった。現代アートの世界においては、2000年代初頭、現代アートの“日本ブーム”をけん引した奈良美智氏、次いで2003年のルイ・ヴィトンとのコラボレーションで一躍その名を世界に知らしめた村上隆氏などの名前が紐づくだろう。

2020年が目の前に迫りくる今、「KAWAII(カワイイ)」は、すでに新たな潮流が始まっている。人形を通し、動物と人間をミックスした世界を表現するドール・クリエイターのYUYA WADA氏だ。静岡県の古い港町に生まれた氏は、高校を卒業後上京し、映画の特殊メイク・特殊造形を学んだ。将来を、映画の、しかも“特殊”と形容する技術に絞るという、大胆な選択はもちろん「映画が好きだったのもありますが、映画の中の世界を形づくっているモノに興味があったのかもしれません」。

以降、映像や舞台などエンタテインメントに関わる特殊造型スタジオに勤務し、その技術を磨いた。“好きを仕事に”した後も映画への興味は変わらず、とある映画を見た際に「自分もつくってみたい、自分の個人作品をつくりたい」という気持ちが芽生えたという。ウェス・アンダーソン監督の「ファンタスティック Mr.FOX」だ。

2013年、仕事を辞めロンドンへ留学。「刺激を受けに」という渡英は、「ロンドンでは美術館や博物館が基本無料だということに感激して、よく行きました。『深く見る』という習慣が身についたと思います」。帰国後、人形の作家活動をスタートさせた。

日本における「人形」創作は、四谷シモン氏や三浦良氏に代表される「球体関節人形」がよく知られている。アートとしてのその源流は、“反ナチズム”を人形創作により表明した、ハンス・ベルメールまで辿ることができる。「KAWAII(カワイイ)」が現代アートのコンセプトに組み込まれてからは、フィギュアがアートピースに“昇格”した。

これまでに出会った実在する人物をモデルにするWADA氏。「人形」という立体作品の変遷において、自分自身のクリエイションは「“あの人がもし動物だったら”と、人形をつくり始めました。人間のままの顔をつくることは自分の表現方法として外れていて。想像する世界を形にすることこそが、自分の表現になると思い、今のスタイルにたどり着きました」。

ナチュラルな雰囲気すら感じさせる被毛の中のシンプルな表情。“眼差し”と呼ばせる瞳の鮮度。丁寧につくり込んだ衣服には“着こなし”を加味して、二次元の強いイメージを立体化したフィギュアにはないリアリティを漂わせる。

「動物を選ぶ際には、ただ似ている動物に例えるだけでなく、モデルとなる人の個性や性格バックグラウンドが汲み取れるように心掛けています」。イヌ、ネコ、ウサギと、その動物の種類は簡単に判別できるが、“存在していそうで、いない”佇まいを醸し出す。「映画のように、人形からストーリーが見えるようにつくります。そのストーリーに合った動物の種類を選ぶ感覚です」。

作品は、見る人が「(この人形は)どんなことを考えているのだろう?どんな性格なのだろう?」と想像できるスペースを意識しているという。「自分の中で、その人形に対する動物のキャラクター性を考えてはいますが、見てくださる方々がそれぞれに持つイメージを楽しんでもらいたい」。WADA氏の作品は、見る側がそれぞれに物語を紡いでいく、現代アートの領域にも踏み込んでいる。

日本の「かわいい」という感性は、古典「枕草子」にある「をかし」が、「未成熟の肯定」を指していることから始まった。以来、長い間ある一つの価値観に沿っていた「かわいい」が、輸出されたことで「KAWAII(カワイイ)」という別の視点が加わり、世界的市民権を得た。WADA氏の作品の中には、現在地の「NEOカワイイ」が、その多様さを包括しながら存在している。

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