娘から母へ、母から娘へ。
強くあること・思いやりを忘れないこと・美しさを伝えること。
女性たちの想いを折り込んだ「立体ふくろ」。
個性と機能性で圧倒的な存在感を放つ
“スーパーサブ”バッグの登場。
ウィメンズファッションのアイテムに「サブバッグ」という独自の文化がある。2018年春夏のトレンド、ミニバッグなら、収めきれなかったモノ、つまりほとんどすべてを請け負うのがサブバッグだ。あえて収納量について触れるなら、どちらがメインで、どちらがサブなのか、わからないほど頼りになる存在である。
「なぜ、女性はバッグを2つ持ちするのか?」という“永遠の謎”はここでは触れないが、その個性的な形状と合理的な理由で、女性から圧倒的な支持を集める「サブバッグ」がある。「YS企画」の「立体ふくろ」である。
独学でつくり上げた、母のための “ファースト”プリーツバッグ。
さまざまなプリーツ加工を施した、この「立体ふくろ」。パターンから縫製まで、ひとつ一つを手作業でつくり上げている「YS企画」は、日本で唯一プリーツ加工機械を製造している京都の機械メーカー「三協」を母体としている。「YS企画」代表の清水友子氏は、「立体ふくろ」をつくり始めたきっかけについて「バッグ好きだった母のために」と語る。「ずいぶん重そうなバッグを愛用していましたが、それほど中身が入っていなかったりして」と想い出しながら笑うが、そこで終わらなかった。「軽くて洗える、便利なバッグをつくろう」と思い至ったのだ。
生業とする機械プリーツのことなら、熟知している。しかし、清水氏はハンドプリーツを独学で習得し、バッグをつくろうと決めた。「先輩から譲り受けた型紙からのスタート。スカート用の型紙をバッグにするために、鉄筆で一本一本線を引いて」プリーツのパターンをつくり上げた。
バッグのためにプリーツ・パターンや生地柄を“ゼロから”制作。
矢絣や杉綾のようなプリーツは、ハンドプリーツ用の特殊な型紙2枚の間に生地を挟んで折り込み、蒸気による数十分の高温加熱と真空処理を繰り返し、折り目を固着させる。パターンによっては、この作業を数回行って、複雑な折り目をつくり上げる。「機械プリーツのことはわかっているとはいえ、ハンドプリーツはゼロからのスタートですべてが試行錯誤だった」という清水氏。まず始めにA4書類が入るサイズのバッグをつくり始めた。
さまざまな声に耳を澄まし、
カタチにする、使いやすさへのこだわり。
まずA4タテの基本形を製作した。が、肩掛けより手持ちの方が扱いやすいとわかり、基本形をヨコに変更。肘にかけることも考慮しながら、持ち手の長さを調整し、本体とのバランスを図った。「本体と持ち手の長さを何回も変えて、一番使いやすいサイズ感を追求しました」。小柄な女性が手持ちしても、地面に触れることのない絶妙な大きさを割り出した。素材の選定にも、使いやすさへの “熱意”が表れている。「ご年配のお客さまが『バッグに何を入れたかわからなくなってしまう』とおっしゃっていたことが心に残って、透け感のあるオーガンジーを採用」したが、生地が薄いため縫い目が弾けた。そこで諦めないのが、「立体ふくろ」の「立体ふくろ」たる所以である。縫い方を変えるなど工程を見直し、製品化を実現した。
「お弁当を入れたい」娘のひとことで生まれた、新たなデザイン。
「立体ふくろ」の魅力は、“メイド・イン・京都”らしい鮮やかな色使いにもある。清水氏いわく「四季が濃い」京都の自然を連想させるカラーリング。「立体ふくろ」のマウンテン・シリーズは、その優美な色彩が幻想的な世界をも感じさせる。マウンテン・シリーズの誕生に至っては、清水氏の娘の「お弁当をまっすぐタテに入れられるバッグがほしい」というひとことから始まった。
「立体ふくろ」の「立体」を担っているのは、プリーツの存在である。バッグそのものを「立体化」することは、プリーツの魅力を活かし切れない可能性もあった。つまり、プリーツ生地のバッグにマチを入れる際、折り柄が大きいとプリーツが消えてしまう。小さな場合は柄が乱れてしまうのだ。清水氏は、お弁当を収める10cm以上のマチを備えながら、 “マチがあることを活かす”形状を、プリーツで、つくりあげた。マチを含みながら生地の高低差のある折りを施すことで、立体と“折り合い”をつけたのだ。
相手を思いやる“ものづくりスピリット”を全員で共有。
マウンテン・シリーズを生むきっかけとなった娘は、高校・大学・大学院で染色を学び、「立体ふくろ」の手染めを担当している。「私が強引に誘った」と笑う清水氏だが、娘という染色作家の存在が、清水氏のものづくりにもたらすメリットは大きい。
「娘の参加はもちろん、私たちはみんなで努力してものづくりに取り組んでいます。ベテランの指導を仰ぎ、“作り手”として一緒に育ってきました。だからみんなで意見を言い合って、いつも試行錯誤。この相乗効果で、納得したものづくりができるようになってきました」。女性客の手厳しい意見やリクエストに耳を傾け、手間と時間を惜しまず改良を重ねる。結果、商品が自らを語り、新たな顧客を生む。「バッグは、軽くて使いやすいのが一番。私たちの想いが伝わっていると実感しています」。
母と娘から始まった“ものづくり物語”が宿る「立体ふくろ」。
数多くの名言を残したイギリスの歴史家、トーマス・フラー。彼の発言の中に、こんな言葉がある。「息子は妻をめとるまでは息子である。しかし、娘は一生涯、娘である」。時に親友のように、また時に葛藤を孕む母と娘の関係は、その数だけそれぞれの物語を紡ぐ。娘が母を想い、母が娘を想うことで「立体ふくろ」が生まれた。「立体ふくろ」は、女性たちが想いを込めて折り重ねた「母と娘の物語」が、使う人の心に届いているからこそ、支持されるのかもしれない。