静かに「装う」を再定義する、
アクセサリーシリーズ
前田家に育まれた、富山県高岡市の「伝統産業とエレガンス」
「グラン・サンク」と呼ばれるハイエンド・ジュエラーたちがいる。フランス・パリのヴァンドーム広場とラペー通りにある5つの老舗ジュエラーのことだ。ブランデーに名づけられた皇帝の御用達だった、元ハリウッド女優の王妃が愛用した、などグラン・サンクの周辺は、「逸話」の枚挙にいとまがない。そして「女性なら一度は憧れる」と締めくくり「宝飾とはこうあるべき」と定義づける。いったい、なにが、なにを輝かせるのだろうか。
富山県高岡市。加賀藩主・前田利長が築いた高岡城の城下町として発展し、高岡城がなくなった後も、茶道具を代表とする鋳物産業が盛んな土地だ。およそ400年の長きにわたり、伝統工芸が “精錬”した高い美意識と、前田家のお膝元として育んだ“文化の血筋”の誇りを感じさせる街。
高岡文化の“クロスオーバー”をモダナイズし、世界へ。
高岡の鋳造は、大名に献上する美術工芸品の製作から始まり、仏具、鍋釜、花瓶、茶道具、装飾金具など、他のジャンルと交差しながら銅を中心にその技術を磨き上げてきた。「金属は、再利用できるサステナブルな素材である」という現代的なアイデアとともに。
錫のやわらかさ、儚さを表現した「TIN BREATH」。
「TIN BREATH」は、錫(スズ)を原材料にしたアクセサリーシリーズ。一見何の変哲もない金属のプレートが、身体の一部に巻きつけられることで、ブレスレットや指輪という「装飾品」になる。「TIN BREATH」という名は、錫を曲げたときに起こる独特の音を「呼吸」と表現した。金属にもかかわらず曲げることができる、錫の展延性を活かしたアクセサリー。「固い」イメージの金属が「やわらかい」という、相反する概念を内包し、さらには結晶構造の変化による音を「呼吸」と呼ぶ、その儚さ。パワフルに輝くダイヤモンドは「屈しない」というギリシア語に由来し、ときに戦のお守りとして身に付けられていた。「強烈な非日常」に必要な、強い輝き。「TIN BREATH」のやわらかな輝きが私たちの日常にフィットし、華を添えてくれるであろうことは、想像に難くない。
表には越前和紙、裏にはイタリアで700年愛用され続けている水彩紙を合わせ、二つの表情を演出した。人を選ばず、どの指にも、腕のどの部分にも巻きつけることができる「TIN BREATH」の包容力は、飾られる身体の上で、静かに、しかし自由奔放に輝きを見せる。それは、シンプルを極めた形状と純度の高い素材がもたらす、豊かな装飾性でもある。
「232℃」という非常に低い錫の融点は、溶かしやすいと同時に固まりやすい。食器よりも薄い仕上がりを実現するため、鋳造の技術から刷新し、完成させた。製造時の温度状況により、表面に微妙な変化が発生することもあり、「TIN BREATH」の味わいを深めている。
日常を重ね、年を重ねて、高みに近づいていく輝き。
亡き父観阿弥の教えをもとに、世阿弥が能の理論をまとめた「風姿花伝」。そこには、「幽玄」という理念が記されている。その“美しく柔和なる体(てい)”を身体に纏い、優雅に装うことができるのが、「TIN BREATH」だろう。日本人が自然の中に見出す美意識、自然観そのものをカタチにし、装う行為にまで落とし込んだアクセサリーシリーズ。草花や昆虫など「自然」を“モチーフ”としてカタチづくるグラン・サンクとは、一線を画す。「TIN BREATH」は人生経験から身に備わる味わいをも、その人のアクセサリーとして、日常を輝かせるだろう。