自由になれるものを作りたい ― イラストレーター シバチャンが「スケータージョン」に込めた想い
クリエイターに作品制作の裏側をお聞きする、クリエイターインタビューシリーズ。
今回は、海外でも人気を集めるキャラクター「Skater JOHN(スケータージョン)」の生みの親、シバチャンさんが登場。スケボー、HIPHOP、サーフィンを愛するニューヨーカーの犬・ジョンは、ストリートカルチャーを背景にしながらも、世代や国境を越えて愛される存在です。青と白を基調にしたプロダクトは、シンプルながらも確かな個性を放ち、多くの人を魅了しています。
そして、2025年9月にはマークスとともに制作した新しい文具・雑貨コレクションが発売。インタビューでは、「属性に縛られないデザイン」への思いや、キャラクターに込めたアイデンティティ、そして「自由」を大切にする創作の姿勢について、オフィスシバチャンのスタッフの方々とともに語っていただきました。「スケータージョン」が映し出す“自由のかたち”に迫ります。
TEXT:羽佐田瑶子 PHOTO:澤田もえ子
属性に縛られない、老若男女に愛されるデザインを目指した
──みなさんが持っているスマホケースは、スケータージョンを象徴するアイテムのひとつです。どのような方が手にとっているのでしょうか?
ありがたいことに、世代や性別を問わず老若男女の方々に使ってくれています。これまで、男性でも持てるキャラクターのプロダクトってあまりなかったと思うので、恋人同士でお揃いにしてくれている人も。先日ショップに遊びに来てくださった男性は「生まれて初めてキャラクターにハマった」と仰っていました。娘さんをきっかけに、お父さんも一緒にハマったという話も聞いたことがあります。

マークス×スケータージョンのコラボアイテム
──キャラクターデザインを考える際に、幅広い世代の方に手に取っていただけることは意識されたのでしょうか?
属性に縛られないデザイン、というのは最初から大切にしていました。以前、会社員としてグラフィックやウェブなどさまざまなものをデザインするなかで、やっぱり「すべてに届く」ことのすごさを実感しました。なので、独立したときから「老若男女に受け入れられるデザイン」を心がけていました。
たとえば音楽には、J-POPのようにマスに届く音楽もあれば、アンダーグラウンドだけれどコアなファンに愛されている音楽もありますよね。僕の場合は、サブカル的な要素もありながらマスにも届くようなものを作りたかった。理想論かもしれませんが、それでも「すべてに届ける」というすごさを、まずは突き詰めて考えたいと思ったんです。
──マスにもコアにも届く、ちょうどいいバランスを考えるのは非常に難しかったのではないでしょうか。
試行錯誤の連続でした。僕自身、ストリートカルチャーとよばれるものが好きなのですが、そこだけに焦点を当てると絞られてしまう。ストリート要素がありながら、誰が見ても「いいな」と思えるものを目指しました。

──シバチャンさんの原点にある、ストリートカルチャーは?
東京に上京したときに、初めて行った場所が原宿でした。当時は「A BATHING APE(エイプ)」や「STUSSY」といったストリートファッションが席巻していて、街が盛り上がっていた。僕もインパクトがあるパキッとした色合いやデザインに惹かれていたので、そこから街中がカッコいい雰囲気に染まっている状況に衝撃を受けたことを覚えています。印象的なのは、BEAMSがTシャツだけの専門店を出して、レールのうえをTシャツが流れている空間は記憶に残っていますね。
──2002年オープンの「ビームスT原宿」のお店は話題になりましたよね。アトリエのような空間をテーマに、レールのうえをTシャツが流れて、まるでギャラリーのようなお店でした。
そんな風に、インパクトのあるものに心惹かれるんです。はじめて裏原を訪れたときの衝撃が未だに忘れられず、当時のあこがれをずっと追いかけて作っている気がします。なので、「スケータージョン」もひと目でファンになってしまうインパクトを残したくて、カラーを固定したりキャラクター性を決めたり、世界観を作っていきました。
キャラクターに宿るアイデンティティこそ大事
──小さな頃から、絵を描くことがお好きでしたか?
好きでした。幼少期は勉強も運動もせず、ボーッと空想ばかりしている子どもだったんですが手元だけはずっと動いていて。授業中もノートや教科書にずっと絵を描いていましたね。専門学校に通って基本的な絵の技術は習いましたが、自分の絵のスタイルは、遊び感覚でひたすら絵を描いていた頃に蓄積されたものです。
──現在も、手元がずっと動いている状況は変わらないですか?
テレビを見ながら、電話をしながらでも絵を描いてしまいます。話に100%集中しているんですけど、手元だけは無意識に動いてしまう。サッカー中継を見ながら、全くサッカーと関係のない絵を描いたりしています。思えば、ストリートカルチャーのように“好き”なものはあっても、絵を描くこと以上に時間を費やしたものはないかもしれません。

──絵のタッチも昔から変わりませんか?
タッチはいろいろ模索しました。イラストレーターとして独立したときに、いろいろな絵を描いて自分だけのスタイルを模索した時期があります。人と違う絵を描きたい、という気持ちが強かったので、すごく汚い線にしたり、ものすごくおしゃれな方向にふったり。ただ、どんなジャンルの絵でもその道のプロがいるわけで、自分だけの何かを見つけなければいけない。
あまりに悩んで、友だちに相談したことがありました。そうしたら、「めちゃくちゃ描いていれば、自然とそうなっていくんじゃないか」と言ったんです。描いて、描いて、描きまくったら結果的に自分の絵になる。その通りだと思って、ひたすら絵を描きながら、いいところだけ吸収して自分の道に戻ってくることを繰り返しているうちに、今のようなシンプルな線のグラフィカルな絵にたどり着いたと思います。
──あこがれのアーティストさんはいらっしゃいますか?
同じ仕事ではないのですが、アートディレクターの佐藤雅彦さんはずっと好きです。ビジュアル以上に、佐藤さんの想像力というか、考えもつかないようなアイデアや創作に惹かれます。手がけるジャンルも幅広いじゃないですか。
──「だんご3兄弟」や「ポリンキー」など多くの人に親しまれるキャラクターも作りながら、CMや教育番組、ゲームといった様々なコンテンツを作られていますよね。
ビジュアルがいい、という話だけにおさまらない、それぞれに佐藤さんの表現者としての「哲学」があるように思います。その哲学を伝えるための手段としてビジュアルがあるだけで、奥底にあるアイデンティティに触れる瞬間に心が動かされます。
なんでもそうですけど、かわいいだけ・カッコいいだけのキャラクターにはあまり惹かれません。キャラクターの奥深くにある哲学やアイデンティティこそ重要で、見た目は仮面のようなもの。ジョンも極論“丸描いてちょん”でもいいと思っていました。

オフィスシバチャンのみなさま
──ビジュアルは手段であって、伝えたいことやアイデンティティがより大事なんですね。
企業も、ロゴによって印象が変わることがあるじゃないですか。そんな風に、自分たちの思いが伝わるシンボルとしてジョンを描いています。
ジョンのテーマは「自由」です。難しいことは考えずにやりたいことをやる、そういうジョンのスタイルに影響されて、もっと自由になってもらいたいという思いを込めています。
昔から、人生はすごくシンプルだと思っていました。けれど、たくさん悩みますし、あれこれ考えて自分から人生を難しくしてしまっている。僕自身がまさにそうなんです。なので、ジョンを通じて受け取る人が幸せを感じて、自由になれるものを作りたいと思っていました。
──自由が足りないと感じる場面があったのでしょうか?
最近よく、自分らしく生きることの大切さを言われますが、仕事や周囲との関係もあって理想通りにはいかないですよね。でも、実は自分でことを難しくしまっていることが多い。もっとシンプルに、楽しむことだけにフォーカスしたいという気持ちを込めています。
STAFF 近くでシバチャンを見ていても、自身が自由を求めていることはよく感じます。やりたいことをする。彼のアイデンティティからジョンが生まれていることは、とてもよくわかります。

──「スケータージョン」が誕生したのは、MLBのサンフランシスコ・ジャイアンツの試合を見たことがきっかけだと拝見しました。
海のそばにある球場なので、ホームランボールが球場の外まで飛んで、海に落ちることがあるんです。その、いつ飛んでくるかわからないホームランボールを狙って、カヌーで待っている人たちがいて。僕はその様子を、テレビで見ていました。当時ものすごく忙しくて、小さな部屋にこもってひたすら絵を描いていた。鳥籠のような狭い場所にいる自分と、カヌーに乗って海に浮かぶ人の暮らしぶりがあまりに違って「こういう自由な生き方をしたい」と思ったんです。
あと、MLBの考え方もシンプルで好きです。諸説あるそうですが、MLBの球場はほとんど屋根がない。なぜかというと、野球は外でやるものだ、という考えからで、まさに僕が望む「シンプルな考え方」を実行しているなと思います。
そうしたあこがれから、自由の象徴であるアメリカをテーマにジョンの世界観を作っていきました。キャップとフードをかぶり、スケボーに乗って、HIPHOPを聴き、ハンバーガーを食べている。日本人が思う、アメリカのイメージを詰め込んだものです。
──シバチャンさん自身は、スケボーやサーフィンは?
やらないんです(笑)。やりたいけれど、あこがれる気持ちをジョンに重ねています。
「自由」にあこがれる人たちが集う場所になる
──ジョンのプロダクトとしてのはじまりは?
手描きのイラストをソフビにしてもらったのがはじまりです。Instagramに投稿したものを、フランスのアートコレクターの方が売って欲しいと声をかけてくれました。その方がInstagramにアップしたことで、NFTなどアート分野に広がっていきました。
──先日は台湾でポップアップストアをオープン、K-POPアイドルがスマホケースを愛用するなど世界的にもジョンが広まっていますが、印象的なことはありましたか?
台湾に行った際に、みんなでごはんを食べに行ったんですね。そうしたら、僕は気づかなかったんですが、ジョンのグッズを身につけたファンの方がいらしたようで。あとは、ジョンのTシャツを着て道を歩いていたら「ジョン!」と声をかけてくれる人がいました。

スケータージョン/メッシュポーチ
──さまざまなアイテムを展開されていますが、インスピレーションの源は?
いろんなことにアンテナを立てて、ずっと何かしら見たり観察したりしていますね。ストリートということもあり、街を歩くことも多いです。いいデザインのTシャツを着ている方に会うと写真を撮らせてもらって、アイデアをストックしています。
──今回のマークスとのコラボレーションアイテムについて、文具や雑貨という日常に寄り添うアイテムに、ジョンの「日常に遊び心と自由を」という世界観はどのようにマッチされていると感じますか?
マークスさんにはもともとおしゃれなものを作られる印象がありました。今回もジョンらしさを活かしながらデザインしてくださっていて、幅広い世代に手に取りやすい仕上がりになっていると思います。ポーチがプリントではなく刺繍になっているのもすてきで、僕らのアパレルラインとの共通点を感じます。


マークス×スケータージョンのコラボアイテム
──マークスの担当者も、アパレルの展開を意識して、おしゃれさを大事に素材感で遊びたいという想いがあったようです。
決められた型から選ぶのではなく、ジョンの世界観と「欲しくなるもの」を意識して作ってくれたのがうれしいです。僕は、手のひらサイズのノートを使ってみたいですね。どこにでも持っていけて、使いやすそうです。
──コラボレーションをされる際に、意識していることは?
あたりまえのことですが、一番大切にしているのは「買わなきゃよかった」と思わせないことです。今回のアイテムはひとつひとつ大事にデザインして、大切に作ってくださった過程を知っているので、とてもうれしく思っています。

──今後、どのようなアイテムに力を入れていきたいですか?
ニーズがあるという意味で、アパレルとフィギュアですね。WM3という会社を友人と立ち上げて、アパレルのラインをスタートしました。主に穴ヶ崎というメンバーがデザインを担当しています。フィギュアはMEDICOM TOYさんと作っています。形になると何かが宿っているような気がして、イラストやグッズとは違うプラスαのものを感じます。
──ありがとうございます。最後に、今後チャレンジしたいことについて伺えますでしょうか。
ジョンでコミュニティを作りたいんです。K-POPアイドルの方々を見ていると、そこで豊かなコミュニティが広がっているなと感じていて、ジョンをシンボルに、自由を求める人が集うようなキャラクターになってほしい。ジョンの世界観にあこがれる人たちが集まったら、より自由で楽しいことを一緒に実行できる気がしています。コミュニティという、不思議さや怪しさも僕は好きで(笑)、ジョンをハブに世界の人たちがつながりたいです。


プロフィール

■OFFICE SHIBACHAN(オフィスシバチャン)
■Skater JOHN(スケータージョン)
犬でありながらスケートボード、サーフィン、ヒップホップが好きなニューヨーカー。
日本のイラストレーター「シバチャン」が2018年に生み出したオリジナルキャラクター。
SNSで話題となり、フィギュアやグッズなど国内外で人気を集めている。
( PROFILE )
シバチャン
デザインの制作会社でグラフィックデザイナー、WEB制作会社でWebデザイナーとしての勤務を経て2010年の4月からイラストレーターとして独立。


