手書きは曖昧さが許されるし、正解から自由になれる。|GREAT WORKS 山下紘雅
Intro
#001
戦略クリエイティブファーム GREAT WORKS
CEO 山下紘雅さん
プランナー 谷古清佳さん
考えがまとまらない。うまく言葉にできない。
そんなとき、助けになるのが「書くこと」です。論理的に考えることと、自由に発想すること。そのあいだを行き来しながら、思考を前に進めてくれるのが、書くという行為です。戦略とクリエイティブの両面から企業の課題に向き合う「GREAT WORKS」の山下紘雅さんと谷古清佳さん。お二人に共通していたのも、「書くこと」でした。
では、私たちはなぜ今、あえて手書きを選ぶのか。
EDiTの新シリーズのノートを使いながら、ビジネスの現場で「書くこと」がどのように思考を動かすのか、うかがいました。
論理と発想を行き来する。その先に、仕事の価値がある
──お二人の仕事について教えてください。
山下:私たちは「戦略クリエイティブファーム」として、コンサルティングからクリエイティブまでを一貫して手がけています。特徴的なのは、クライアントの課題が明確な状態から入るというより、「そもそも何が課題なんだろう」「何をしたらいいんだろう」といった、まだ整理されていない段階から関わるところです。
──最終的なアウトプットは、広告代理店のような形になるのでしょうか。
山下:そうですね。ただし、断片的な情報や違和感しかない状態から、それを一つひとつ拾い上げて構造化していく。つまり、コンサルティング的なアプローチから入って、そこからクリエイティブの過程に進み、最終的なアウトプットまでつなげていきます。

──ということは、論理的に積み上げる思考と、クリエイティブな飛躍、どちらも必要。
山下:はい。論理だけだと一見正しく見えるけれど人の心は動かないし、アイデアだけでは面白いけれど再現性や説得力がない。特に今は、過去の延長線上で未来を描くことが難しい時代ですよね。だからこそ、「こういう未来だったらいいよね」「こうならワクワクするよね」といった大胆な仮説を置きながら、かつ、それを現実的に検証していく。その両方を行き来できる力が、すごく大事になっていると思います。
モヤモヤした感情や絡まる糸を解きほぐす、「書く」という編集作業
──「未来のワクワク」と「現実的な検証」、その行き来を叶えるものは何でしょうか。
山下:言語化ですね。
──言語化……。そこが難しいところです。
山下:そうですよね。だから私は、いきなり言語化しようとするよりも、まずは上質なインプットが大事だと思っています。クライアントとのミーティングでも、相手が言っていることをフラットに、100%理解するように心がける。それを丁寧に、丁寧に、やることです。

谷古:例えば、クライアントが「マネジメント」という言葉を使ったとします。同じ「マネジメント」といっても、どういう意味合いなのか、どういう思いを込めているのか。その一つひとつにしっかり向き合いながらインプットすることを、教えられました。
山下:AI書き起こしなどの機能は積極的に活用すべきだと思います。ただ、その前提となる議事録をまとめるプロセスは、自分のフィルターで要約してしまいがちな癖やバイアスを取り除くトレーニングをしておかないと、危ない。
まずは情報を取りこぼさないこと。一つひとつの言葉の意味までちゃんと捉えること。その上質なインプットから、大事なものを抽出していく。それが、言語化につながります。
──そこに、クリエイティブな視点も関わってくるのでしょうか。
谷古:クリエイティビティが求められる場面って、「最後の表現」の部分だけだと思っていたんですけど、仕事をする中で、そこに至るまでのプロセス全部なんだと気づきました。
インプットした中から構造を整理して、さらに視点を広げて、分析したり、拡散したり。その振れ幅の中で、「これ!」という言葉が見つかるたびに、新しい思考がジャンプしていく感覚があります。

山下:言葉と言葉、情報と物語。その接続が必要なんです。発した本人も気づいていないモヤモヤした感情や、複雑に絡まっている糸を丁寧に解きほぐしていく。それって、言い換えると「編集している」感覚に近いんですよね。
そのプロセスを、私たちは「書くこと」でやっています。
発散→収束→言語化のツールに、あえて「手書き」を選ぶ
──実際には、どのようにされているんですか。
山下:メモ取りに関しては、私はいまだにアナログなスタイルで。例えばこれ、クライアントとのミーティングメモなんですけど。相手の話をほぼ全部、聞き逃さないように書いています。会話の間中、ほぼノンストップでペンを走らせる。こんなに書く人、あんまりいないと思うんですけど。社会人になりたての頃から、これだけは唯一、変わっていません。
──これが、上質なインプットなんですね。
山下:インプットでもあり、自分にとっては発散でもあるんです。机に戻ったら、書いたメモをぜんぶ広げて、すみずみまで目を通します。ぐちゃっとした手書きの文字の中から、「どこが輝いてくるのかな」とマーカーでハイライトしたり、もっとリサーチしたい情報をメモしたり。「この発言は本当だろうか」「背景に何があるんだろう」と、なぜなぜの深掘りを繰り返す。
──ああ、思考が内向きじゃなく、外向きになっている。だから発散!
山下:その時に、頭の中だけとか、小さなデジタルの画面じゃなくて、紙をばーっと並べるというフィジカルなやり方が、一番わかりやすいんです。

──そこから収束していく。
山下:はい。いくつかのフレームを当てながら、物語化したり、言語化したり。
──谷古さんも同じやり方ですか。
谷古:私は今はパソコンでメモを取ることが多いです。もともとは手書きで図にして考えるタイプでした。もう小学生の頃から、先生の話も図にしないとうまく理解できなくて。
山下:たぶん、谷古の方がちょっと特殊脳なんじゃないかなと思います。私は意識的に思考を使い分けているところがありますが、彼女は自然にデュアル脳を使っている気がします。
谷古:大学生の時に始めたグラフィックレコーディング(グラレコ)は、私の脳の使い方にかなりフィットしたんです。会議や議論の場で、話の内容をリアルタイムに描いていく手法なんですけど、ビジュアルで要点を単純化するスキルが活かされました。

──わぁー、楽しいですね。
谷古:でも逆に、私は論理的に考えることが苦手で。入社したばかりの頃、ロジカルシンキング講座の社内研修があって1回出席したんですが、「私、無理です」と言って、例外的に外してもらいました。
山下:だけど、彼女のグラレコの何が秀逸かって、ポイントがすごく的を得ているんです。単なるビジュアル版議事録っていうんじゃなく、要約して、単純化して、俯瞰して見せている。「感覚的なロジカルさ」みたいなものがないと、こんな風にできないです。
──確かに、そうですね。
山下:みんなつい、論理と感性、理系と文系、左脳と右脳のような二項対立で語りがちですが、本来、誰もが両方、備えているはずなんですよね。私は、「手書き」というワンクッションを挟むことで、思考のモードが切り替わる。両方を動かせる気がするんです。
谷古:私も、頭の中だけだと曖昧なものが、書くことで扱いやすくなる気がします。
山下:触れられる思考、というか。そうやって、思考に輪郭が立ち上がってくるんだと思います。

手書きグラレコの圧倒的なWOW体験で「共創」が走り出す
──グラレコは、実際の仕事でも使われているんですか。
谷古:はい。これは昨日、山下が取材している内容を、横で聞きながら描いたものです。クライアントワークにおいても、たまにグラレコを取り入れています。テキストだけの一般的な議事録よりも、グラレコの方がキーワードが目に飛び込んできますし、世界観が浮かび上がってくるんです。

山下:クライアントとのワークショップ合宿でも、セッションごとに谷古がグラレコを描き、休憩時間に印刷して配る、ということをやったりしています。
──ワードやパワーポイントでまとめるのとは、何が違うんでしょうか。
谷古:一番違いを感じるのは、見てもらった時の反応ですね。「今の話が、これになったんですか?」っていう驚きが、まず参加者の思考をほぐすようで。見慣れたデジタルのフォントにはない刺激があるのかもしれません。
山下:200人くらいの会議で、大学の先生方が議論している内容を谷古がグラレコして、最後に投影したことがあったんです。そのときの“ワオ!”がすごくて。ずっと硬かった場の空気が、一気にやわらいだんですよ。皆さん、前のめりになって見てくださった。
──そのWOW体験が、その後の議論にも影響するんですか。
谷古:実際に、「これってどういう意味だろう」「じゃあここをもっと深めよう」とか、次の議論が動き出します。
山下:今までは、こういう思考のプロセスって、内部で完結させていたんですけど、それをクライアントともリアルタイムに共有することで、広がりがまったく変わります。
今の時代、やっぱり「共創」が重要で。関わる人を巻き込み、「一緒に創っている」実感を生む装置になっています。
──確かに、空気が変わりそうです。でも、絵が描けないとできないですね。
谷古:グラレコの絵は、丁寧に描き込む必要はなくて、とにかくスピーディに分かりやすく伝えることが大切なんです。練習すれば、きっと誰でも上達すると思います。そこに手書きならではの温度感や、受け取り方の余白があるからこそ、共感が生まれるのかなと思います。

山下:まさにそう。クライアントも、現場ではどうしてもロジカルに考えないといけない場面が多くて、思考が固まりがちです。でも、そこで「こんなふうに展開していいんだ」と自由度が開くと、その人自身のクリエイティビティが一気に動き出す。そうやって、心に火がつく瞬間をつくれることが、私たちの一番の価値だと思っています。
紙とデジタルの使い分けで、脳の刺激を変える
──ふだんは、デジタルの手書き、タブレットでグラレコをされているんですよね。
谷古:はい。iPadで描くことが多いです。
──久しぶりに紙に描いてみて、どうでしたか。
谷古:やっぱり紙で描くのもいいな、と思いました。
正直、最近ちょっとしっくりこない感覚があったんです。デジタルって、どうしてもつるっとしてしまうというか。もう少し温度感を乗せられないかなと感じていて。
iPadで描くときは、色を工夫したり、周りにイラストを足したりして、華やかさを出すことで温度感を込めるんですけど。でも紙だと、筆圧や偶然のにじみ、重ねた線そのものに、その場の熱量がそのまま閉じ込められる。描き終えたときの「できた!」という実感も、全然違うことを思い出しました。

──デジタルとアナログで、かなり感覚が違うんですね。
谷古:違いますね。デジタルは自由に切り貼りできて、整理もできるんですけど、その分、無意識にきれいにまとめすぎてしまうような。
でもアナログは、書き直しもできないし、後から無理やり隙間に書き足したりすることもあったりして。それで生まれるアンバランスさや、コントロールしきれない部分が、逆に“生っぽさ”として残るんです。
山下:確かに、アナログには色艶があるんですよね。
自分も手書きのメモを見返すと、そのミーティングの空気ごと思い出せるんです。何年も前のメモでも、見ると「あの狭い会議室で、こういう込み入った話をして、次はいつ会う約束をして……」と、細かいところまで立体的に蘇ってくる。自分でも驚くくらいに。
どちらがいいというより、使い分けることで思考の動きを変えればいいと思います。
谷古:デジタルだと整える方向に、アナログだと広がる方向に動く感覚がありますね。
山下:私は発想を飛ばすとき、あえて異質なものを入れ込むようにしているんです。本のタイトルだけバーッと眺めたり、ずっと机に座っているなら廊下を行ったり来たりして歩いたり。
それと同じで、デジタル漬けの生活の中で紙と手書きという組み合わせが、脳にとって新鮮なのかもしれません。たまに手書きに戻ると、思考の刺激が変わると思いますよ。
手書きは曖昧さが許されるし、正解から自由になれる。そこが大きいと思います。

──ふだんは、どんなノートを使っているんですか?
山下:社会人になりたての頃はB5サイズの普通のノートを使っていて、いまだにそれ、何十冊もとってあります。だけど途中から、A4サイズがいいなと思うようになって、ノートではなくコピー用紙を使うようになりました。複合機からバサっと紙を取って、「行ってきます」みたいな。それで書いたものは全部スキャンしてクラウドストレージに保存しています。
A4サイズのEDiTで、思考のキャンパスが広がった
──今回使用した「EDiT 手帳用紙を使ったノート・160ページ」はいかがでした?
谷古:書き心地がすごくよかったです。インクの乗りもよくて、発色がきれいですよね。
山下:紙の質感が好きです。さらさらと滑らかで、ペンが止まらない。
──A4サイズを使われたんですね。
山下:はい。しかもこれ、1枚ずつ切り離せるんですね。コピー用紙みたいに使える(笑)。それでいて、見開きでA3サイズとして使えるので、キャンバスが広がった感じがしました。

谷古:紙の薄さのおかげで、軽いですね。あと、デザイナーさんやクリエイターさんに、「それ、どこの?」ってよく聞かれました。プロダクトとしての上質感があって、持ち歩きたくなります。
──無地と方眼罫、フォーマットの違いはどうですか。
谷古:グラレコにはやっぱり無地、それ以外の仕事に使うなら方眼罫を選びます。縦横のガイドがあって、思考の整理を助けてくれそうです。
山下:私は初見では方眼罫がいいかなと思ったんですけど、使ってみたら無地がしっくりきました。枠がない分、思考の動きに合わせて自由に書ける。広がるスペースが、そのまま発想につながるんですよね。


TEXT:深谷恵美 PHOTO:永井樹里
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( PROFILE )
GREAT WORKS
代表取締役 CEO 山下紘雅
早稲田大学大学院修士課程修了後、デロイト トーマツ コンサルティング株式会社に就職。2012年、住所不定無職で1年間の世界一周旅行へ。2015年に「ビジネスの世界に、もっと編集力を」との想いから、株式会社ペントノートを設立。2020年よりグレートワークス株式会社の代表を務め、ロジックとクリエイティブのジャンプを繰り返す“戦略的着想”を提唱。“Make Jumps Together”をミッションに掲げ、クライアントが抱えるさまざまな課題解決をサポートしている。
プランナー / コミュニケーション室長 谷古清佳
学習院大学経済学部在学中から活動に携わったスタートアップへ新卒で入社。若者と企業をつなぐ「Z世代会議」の運営を担うとともに、会議などの要旨を即時にイラスト化する「グラフィックレコーディング」のスキルを身につけ、2022年にGREAT WORKSへ転職。日常生活から高い感度で気づきを拾い上げ、プロジェクトに活かすことが得意。


