手書きだからこそ出てくる言葉がある|俳優 宮田佳典

手書きだからこそ出てくる言葉がある|俳優 宮田佳典

書くことについて、話そう #002
俳優 宮田佳典さん


書くことは、思考であり、感情の整理であり、自分自身との対話でもある。書くことで、何かが変わる。気持ちが整理される人もいれば、未来が見えてくる人もいる。暮らしや仕事の中で書くことを大切にしてきた人たちにとって、それはどんな意味を持つのだろう。
この連載では、さまざまな職業の人々に「あなたにとって、書くとは?」を問いかけながら、マークスの「EDiT 手帳用紙を使ったノート」を実際に手にとっていただき、それぞれの"書く時間"をひもといていく。第2回のゲストは俳優・宮田佳典さん。「手書きだからこそ出てくる言葉がある」——その言葉の意味を、じっくりと紐解いていく。

日々を大切にするため、ノートに向かう

──宮田さんが日常生活を送る中で、ノートに向かうのはどういうときですか。

毎日です。空いた時間を見つけては、常に何かしらノートに書いています。そのときに思っていることや感じていること、あるいは過ぎたことを振り返ってみたり。たとえば、自分にとって何かネガティブなことがあったとしますよね。僕はこれをネガティブなまま終わらせたくないんです。視点を変えてみたら、捉え方だって変わってくるはずだから。

──過去の出来事から少し距離を取って、俯瞰して、再検証していく。そういったときにもノートに向き合うと。

はい。僕は役者なので、オーディションに落ちることもあるんですけど、なぜ落ちたのか、受かるためには何が足りなかったのか、あれこれ考えるようにしています。日々の出来事のひとつひとつを、できるだけプラスに変えていきたいので、この考え方次第で“オーディションに落ちた”というネガティブな出来事の意味が変わってくるんです。あと、日記も書いています。バッタリ友人に会ったことに対して、どんな意味があるのかを考えたり。こうして振り返っていると、とにかく考えるために書いていますね。

──いつ頃からノートに書くようになったんですか?

30代の半ばあたりだと思います。前の事務所を辞めて、フリーランスになった時期です。これからはひとりでやっていかなくちゃならない。そう思ったときに、これまで以上に自分自身と向き合う必要性を感じました。気がついたらノートに筆を走らせていましたね。

──セルフマネジメントの一環でもあるんですね。

もともと、書くことは好きでした。僕は役者になる前に看護師として働いていたのですが、国家試験の勉強に打ち込んでいた時期も、ずっとノートに向かっていました。でも、こんなにも自分自身の日常や感情について書き留めるようになったのはここ数年です。

──その積み重ねが、企画の立ち上げから携わり、国内外で多くのファンを獲得した映画『SUPER HAPPY FOREVER』にもつながっているわけですよね。ほかに宮田さん自身が感じている、書くことによる変化はありますか?

やっぱり、書いていると心が落ち着きます。頭の中がスッキリするというか。でも、これが役者にとっていいことなのかはわかりません。役者は悩んでいるほうがいい、みたいな話も聞くので。ただ、書くことで1日を振り返るのと同じように、演技の振り返りもノートでやっています。チェックリストを作って、その日の演技はどうだったかを客観的に振り返るんです。

──すごい徹底ぶりですね。

これを続けていくうちに、日常のいろんなことを振り返るようになりました。どうやったら日々を大切に、うまく生きられるのか。後悔なく生きられるのか。そういう変化もあります。無駄な時間を過ごしたくないという思いがあるいっぽうで、無駄な時間こそ必要だと考えていたりもするんですけど(笑)。無駄だと感じてしまう時間を、無駄なまま終わらせたくない、ということかもしれないですね。時間はかぎられているので。

※映画『SUPER HAPPY FOREVER』……第81回ヴェネチア国際映画祭(ヴェニス・デイズ部門)で日本映画初のオープニング作品に選出された、五十嵐耕平監督による2024年公開の日仏合作映画。伊豆の海辺のホテルを舞台に、妻を亡くした男と幼馴染の2日間を静かに描く。

手書きの魅力──“書く”という体験にこそ価値がある

──手書きで文字を綴っていくのは、それなりに大変なことだと思います。宮田さんとしてはどう感じていますか?

「無駄な時間を過ごしたくない」と言っておきながら、けっこう時間を無駄にしているかもしれません(笑)。書き込むスピードに関してはパソコンやスマホのほうが圧倒的に早いし、入力した情報もすぐに検索できますしね。でも個人的には、便利なデジタルデバイスばかりに頼りたくない思いがあるのと、“書く”という体験そのものに価値を感じているんです。たしかに効率はよくないのかもしれない。だけど、手書きだからこそ出てくる言葉があるはず。そう考えているんです。

──デジタル上での入力と、ノートへの手書きだと、アウトプットの方法がまったく変わってきますよね。筆を手にして書く場合、身体性を伴うことにもなります。

だから手書きって、ひとつの体験なんですよ。それから最近は、何に書くかだけでなく、何で書くかにもこだわっていて。鉛筆もいいんですよね。たまに香りを嗅いだりしながら。

──それもまた体験ですね。

鉛筆の場合はその筆圧によって、自分の感情を知れたりすることもできます。文字に思いが乗るというか。強い筆圧で書くことで、日常的に抱え込んでいるストレスを解消できたりもするんです。

──宮田さんは何種類ものノートを持っていますが、それぞれをどう使い分けているんですか?

用途によって使い分けています。ポケットサイズのものは携帯用で、オフの日に持ち歩くためのもの。バッグがなくても持ち歩けるから便利です。それから、英語の勉強用のノートもあるし、夢日記用のものもある。

──夢日記……?

数年後の自分に完全になりきって、日記を書くんです。

──眠っているときに見る夢ではなく、将来の夢のほうですね。たとえばどんなことを書くんですか。

海外の映画祭で賞を獲って、感動したこととかです。“トロフィーが重くて、思っていたよりも冷たい感触だった”──とか。

──そこまで詳細に。

感情まで書きますね。そしてこれは実際に、ほとんど実現したんですよ。『SUPER HAPPY FOREVER』で。

──たしかに。すごい……!

書いているときは妄想に過ぎないのかもしれません。でもノートに向かっているうちに、この感情までもが、未来で夢を叶えた自分のものになっていく。すると気分も上がってきて、書くスピードも上がってくる。ゆっくり書くと気持ちが落ち着くし、早く書いているとテンションが上がってくるんです。こういうのって、手書きじゃないと味わえない感覚ですよね。

「EDiT 手帳用紙を使ったノート」には秘密のことを書きたくなる

──「EDiT 手帳用紙を使ったノート」にも、すでにたくさん書き込まれていますね。使い心地はいかがですか?

用紙がすごくなめらかで、手触りが気持ちいいんですよね。160ページもあるのに薄くて軽いので、最近はバッグに入れて携帯しています。だから使いはじめてまだ3週間ほどなのに、もうかなりのページを埋めちゃいました(笑)。

──紙の質感やサイズ感によっても、使用の頻度が変わってくるんですね。

僕の場合はそうですね。あまり装飾のあるものよりも、こういうシンプルなものが好みです。こうしてノートに向かい続けていると、書く際に生じるストレスをどれだけ減らせるかが重要になってくる。“書く”という体験そのものを大切にしている僕にとって、このノートの満足度はとても高いです。

──さまざまなノートを渡り歩いてきた宮田さんの感想だからこそ、強い説得力があります。

あと、A5サイズというのもいいんですよね。ノートのサイズによっても書きたくなることが変わってくるのですが、このサイズ感がすごくいい。秘密のことを書きたくなるような、絶妙なサイズ感です。

──秘密のこと。

大きいものだと何でも書けるけど、これはちょっと特別なことを書きたくなるサイズ感。こんなことを感じるのははじめてですね。

──ノートに対する視点が新鮮です。

それから、開いたときの気持ちよさも大きなポイントですよね。これも書きやすさにつながります。僕はまとまった言葉だけじゃなくて、思考や感情の整理をするために、オリジナルの図のようなものを書いたりもするんです。この「EDiT 手帳用紙を使ったノート」なら、まだまだいろんなことを書いていけそうな気がします。

──開いたときの気持ちのよさは、ジャーナリングにも向いていそうです。宮田さんはジャーナリングをすることはありますか?

一時期はやっていました。夜、眠りにつく前にノートを開いておいて、目が覚めたら1ページだけ必ず書くんです。何も考えずに、ぶわーって。すると、寝起きのフラットな状態だからこそ、心が動く瞬間を感じられるんです。しかもこれは、演技に通じるものでもある。

──どういうことでしょう。

たとえば、怒りの芝居や悲しみの芝居がありますよね。感情的な演技をしようとすると、まず衝動が込み上げてくるんです。頭で考えるよりも先に、心や身体が動く。ジャーナリングでは何も考えずに筆を走らせるので、そこで生まれるのもまた衝動だなと思っていて。いまの僕は役者としてこの衝動と付き合えているから、ジャーナリングは必要なくなったんです。自分自身の素直な感情に向き合えるようになった、ともいえるかもしれません。

──最後のページまで書き尽くしたノートは、その後どうしていますか?

以前は捨てていました。本当に大切なことって、書いた時点で記憶に定着しているはずだし、身になっていると思うんです。だからほとんどのノートは、書き終わったらもう必要ない。書くことで思考や感情を整理させたいのと同じように、自分自身の日常をスッキリさせたい思いもあります。でも最近美術館に行った際に、その人が書いていたノートなどの記録、生の字を見て、心が動いたんです。捨てずに取っておくのもいいのかもしれないと思うようになりました。過去の自分の思考や感情に触れるのも、面白いのかもしれないですね。

TEXT:折田侑駿 PHOTO:井上ユリ

 

<掲載商品>
「EDiT 手帳用紙を使ったノート・160ページ」

PROFILE

宮田佳典(みやた・よしのり)

1986年9月22日生まれ、大阪府出身。2017年〜20年、劇団柿喰う客で舞台を軸に活動。その傍ら映画・ドラマへと活躍の幅を広げる。近年の出演作に、『Welcome Back』(25/川島直人監督)、『SUPER HAPPY FOREVER』(24/五十嵐耕平監督)、『悪は存在しない』(24/濱口竜介監督)、主演『サボテンと海底』(23/藤本楓監督)、「まどか 26 歳、研修医やってます!」(TBS/25)、「TOKYO VICE Season2」(WOWOW/23)ほか話題作にも出演し、確かな存在感を示している。

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