手書きの温もりと、心を動かすデザイン|ポール & ジョー × マークス 10周年記念インタビュー
パリのファッションブランド「ポール & ジョー」と「マークス」のステーショナリーコレクションが誕生10周年を迎えました。遊び心あふれるデザインと、日々の暮らしに彩りを添えるアイテム。その背景には、使う人をワクワクさせたいという、ソフィーさんのデザインへの思いがあります。
今回は、10周年を記念して、「ポール & ジョー」の創設者でクリエイティブディレクターのソフィー・アジアグさんにインタビュー。幼い頃からステーショナリーを愛してきたソフィーさんに、手書きの魅力やコレクションが歩んできた10年、そして心を動かすデザインを生み出すインスピレーションについて伺いました。
TEXT:奥村百恵 PHOTO:山口こすも
ステーショナリーへの愛情と、マークスと歩んだ10年
――マークスとコラボをする前、ソフィーさんはステーショナリーに対してどのような思い入れがありましたか?
幼い頃からノートやカラーペン、シール、レターセットなどのステーショナリーが大好きで、よく友達や家族に手紙やカードを書いて渡していたんです。当時はスマートフォンがなく、手紙でのやり取りが当たり前の時代でした。手書きのものには思いが宿るからなのか、文字をパッと見ただけで書いた人を感じることができるんです。だからいただいた手紙を簡単には捨てられなくて。
子どもの頃、サマーキャンプに行った時に親に宛てて書いた手紙もとってありますし、手紙ではないけれど、子どもたちが学校で使っていたノートも全部大事に保管してあります。

ジプシー&ヌネットが楽しいパーティーを満喫するデザイン「パーティー・トゥナイト」
――ステーショナリーに特別な思い出があるソフィーさんにとって、マークスとのコラボの話はうれしいオファーだったのではありませんか?
もちろん! マークスは日本でもヨーロッパでも人気があるのを知っていたので、そんな素晴らしいステーショナリーブランドから声をかけていただけて光栄でした。
――この10年で印象に残っているコラボアイテムを教えていただけますか。
付箋、ペン、マスキングテープ、ポーチなども印象深いですが、やはりマークスとのコラボがスタートしてから10年間毎年作り続けている手帳が一番印象に残っています。手帳を開くと、付属のシールなどのちょっとしたサプライズがあるのが気に入っていますし、毎回完成度が高くて本当に素晴らしいです。

手帳を手にしているソフィーさん
――マークスがパートナーだからこそ実現できたと思うのはどんなことでしょうか?
ステーショナリーに関して長年培ったノウハウがあるマークスだからこそ、良いアイテムを作り続けてこられたと思っています。今、ヨーロッパでは素敵な雑貨はあまり作られていないのですが、マークスからの提案のおかげでいろんな商品を発表することができました。中でもランチボックスは、マークスからの提案がなければ実現しなかった商品だと思います。
手書きの魅力と、ワクワクを生み出すデザインの源
――日本とヨーロッパのステーショナリーに対する考え方の違いを一番感じるのはどんな時でしょうか?
ヨーロッパでは、罫線がひかれただけの普通の用紙に手紙を書くのが一般的です。でもそれってとても味気ないというか……なんだかつまらないですよね。私は大切な人に手紙やバースデーカードを書く際は、美しいデザインのカードやレターセットを選ぶようにしているんです。フランスではなかなか見つからないのですが、日本だとディテールまでかわいくデザインされたものがたくさん売っているので、美しいカードやレターセットを見つけるたびに「とっても素敵!」といつも感動しています。
――デジタルが主流の今、日本の若い世代の人たちは、あえて手で書くことに新鮮味を感じているようです。ソフィーさんもそのように感じることはありますか?
私はスクラップブックを作るのが好きなのですが、ウェディングブックやベビーブックは写真を貼るだけじゃなく、手書きのコメントを入れてスペシャルな1冊に仕上げるようにしています。こういうアナログ感があるものにはデジタルでは作れない良さがありますよね。
今はパソコンを使うのが当たり前になっているので、少し寂しい気持ちになりますが、そんな中でも若い世代の人たちが「手書きの良さ」を感じてくださっているなら、こんなうれしいことはないですね。

クリザンテームと2匹のネコが祝福する華やかなデザイン「セレブレーション」
――デザインに対して、ソフィーさんが大事にしている“信念”を教えていただけますか。
使ってくれる人が、驚きや興奮でワクワクできるようなサプライズを提供したいと思っています。それはどんなアイテムでもそう。ものづくりはじっくりと時間をかけることが必要で、何かアイデアがひとつ浮かんだら、そこからどういう方向性になるのかわからなくてもとにかく考えに考えて、良いものを完成させようと努力します。
最初からうまくいくこともあれば、失敗して何度も試行錯誤を繰り返すことも。そうした過程で素敵なサプライズを思いつくこともあるので、ものづくりはおもしろいです。
――どんな時にサプライズを思いつくことが多いですか?
ヨーロッパの大自然の中ですね。それから、東京のような大都会で何かヒントになるようなものを探すこともあります。東京は伝統的なものと現代的でモダンなものが共存している豊かな街だと感じていて、他の国では見られないような静かな通りや公園、皇居のお堀の立派な鯉、美しく剪定された松の木など、素晴らしいサプライズがたくさんあります。ホテルの中にも自然を感じられる緑豊かな場所があって、そんなところも好きですね。
――日本文化や日本のファンから、影響を受けていることがあれば教えていただけますか。
日本のすべてから影響を受けていると思います。伝統的な日本文化はもちろん、日本人の慎ましさや謙虚さ、奥ゆかしさ、他人との距離感をうまく保っているところや規律を守るところに感銘を受けていますし、ゴミをポイ捨てしないところも素敵です(笑)。それから職人の手仕事も素晴らしいです。手縫いの着物や陶器、焼き物や江戸切子などのガラス細工といった、あらゆるものがアートだと感じています。
時間をかけて丁寧にものづくりを行うところや茶道の作法といった嗜み、そして着物や浴衣をまとって髪を綺麗に結った美しい女性たちなど、今のフランスにはない日本独自の文化は本当に素晴らしいです。フランスはグローバリゼーションで国の個性を失ってしまいましたが、日本は絶対にこの文化を絶やさないようにしてほしいと思っています。
心を動かす出会いから、広がり続けるクリエイション
――アイデア探しでSNSなどもチェックされていると思いますが、お気に入りのクリエイターやアーティストはいますか?
特定のお気に入りのクリエイターはいませんが、絵画などのアート作品はSNSでよくチェックしています。私は印象派が好きなのですが、気に入った絵に「いいね」をすると、アルゴリズムで似たような作家の投稿が次々と表示されるんですよね。その効果もあって、偶然Instagramで発見した素敵な作品の作者にコンタクトを取り、仕事を依頼したこともあります。人と会わずに家でSNSばかり見ていると、外の世界から遮断されてしまうような感覚にも陥りますが、その反面、好みのアート作品を見つけることもあれば、素敵なレストランに出会うことも。
そういえば、最近パリ9区のダンケルク通りにある北アフリカ料理と和食のフュージョンのお店をSNSで発見して食べに行きました。そんな感じで、なるべく上手にSNSを活用するようにしています。
――ちなみに、ソフィーさんが最近心を動かされたものは何ですか?
パリの中心にある建築物グラン・パレが最近改修されたのですが、アール・デコを踏襲した姿に生まれ変わっているのを見て「素晴らしい!」と感動しました。自宅からグラン・パレに行く途中でアレクサンドル3世橋を渡るのですが、この橋はパリで最も美しい橋のひとつだと思っているんです。作られた当時は現在のような技術はなかったので、彫刻もモニュメントも含め、建設はすべて手作業で行われたものだそうで。そういった美しい建築物に心を動かされることが多いですね。

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――ソフィーさんにとって、ファッションデザインとプロダクトデザインの作り方はどのような点が違いますか?
基本的にはどちらも同じで、「お客様をどうやって魅了するか」「お客様にどうやって魅力を伝えるか」をとことん考えています。ただ、ファッションの場合は30年以上の経験があるので、新しい魅力を商品に落とし込むことには多少苦労するというか……そこがプロダクトデザインとの違いかもしれません。どちらもコラボをたくさんやっていて、期間限定なこともあるので、ありがたいことに毎回たくさんの方に反応いただいています。これからも、“手に取らずにはいられない”と思っていただけるものを作り続けていきたいです。
――まだチャレンジしたことのない分野に興味はありますか?
今後はベビーウェアやおしゃぶり、ベビーバッグ、ベビーカーなどさまざまなアイテムを網羅したベビー用品のコレクションをプロデュースしてみたいです。あともう一つ、ペット用品にも興味があります。日本にはペットのトリミングをしている素敵なサロンがたくさんあるので、そういったお店で使う商品も手掛けてみたいです。

――最後に、マガジン読者へのメッセージをお願いします。
身近な人や家族、友達と一緒に出かけたり、幸せを分かち合ったり、笑い合ったりして楽しい時間を過ごしてください。人間に与えられた時間は無限ではないので、何かを学び、大切な人たちと過ごす時間はとても貴重です。これからも豊かな人生を過ごしてください。
( PROFILE )
Sophie Haggiag(ソフィー・アジアグ)
パリ生まれ。1980年代にプリントシャツで人気を博したファミリーブランド「Le Garage」のもと、ファッションとテキスタイルに囲まれた環境で育つ。幼少期より、生地や色彩、服づくりへの感性を培う。19歳でアズディン・アライアのアトリエに参加し、クラフツマンシップやテーラリング、素材へのこだわりを学ぶ。1995年、2人の息子の名前にちなんだブランド「PAUL & JOE(ポール & ジョー)」を設立。以来約30年にわたり、パリらしいエレガンスと遊び心のあるフェミニニティを融合した独自の世界観を確立。現在はファッションにとどまらず、ビューティ、アイウェア、テーブルウェア、ホームウェアなど幅広いカテゴリーを展開しながら、独立したクリエイションを貫いている。



