「今すぐアイスが食べたい!」カチカチのアイスを
ものづくりの情熱で溶かす、アイスクリーム専用スプーン
「今すぐ食べたい」は、万人に共通する“アイスクリームの真理”かもしれない。
ある共通の趣味や嗜好を持った芸人が集まり、その偏愛ぶりを披露することで知られる番組がある。以前「アイスがなきゃ生きてイケない芸人」というくくりで放映された回では、その「アイス芸人」たちが、全員同じモノを所有していた。「15.0%」というブランドのアイスクリームスプーンだ。冷凍庫から出したばかりのアイスクリームを今すぐ食べられることで大ヒットしたプロダクト。「家電」「ガンダム」「ジョジョ」など、さまざまなジャンルを掘り下げては、話題を集めてきた番組である。そう簡単に “売られてしまう”はずがない。では、揃いも揃って同じモノを持っているのは、なぜだろうか。
「溶かすプロフェッショナル」の鋳造技術をスプーンに応用。
アイスクリームのためだけに生まれたブランド「15.0%」。このブランドをプロデュースしたのは、デザインクロックをメインに、ライフスタイルアイテムを製造するデザインメーカー「タカタレムノス」だ。著名デザイナーとのコラボレートにより、国内外で数々の賞を受賞した “名作”時計を生み出してきた「タカタレムノス」が、なぜアイスクリームのスプーンを手掛けることになったのか。まず「タカタレムノス」の強みとして、母体となる富山県高岡市に拠点を置く鋳物メーカー「高田製作所」について触れたい。戦後まもない1947年に創業し、仏具製造から始まった「高田製作所」は、日本の産業の変遷に合わせ、時計枠からインテリア・エクステリア、自動車部品と、鋳造技術を用い幅広い分野を横断し、鋳物をつくり続けてきた。ハンドメイドと機械技術を組み合わせたクオリティの高いものづくりをアイスクリームスプーンに活用したというわけである。
仏具製造からグッドデザイン賞を受賞したモダンプロダクトまで。ものづくりの確かな母体を持ち、ものづくりに精通した上での“デザインオリエンテッド”をコンセプトにした「タカタレムノス」だからこそできた、振れ幅だろう。
アイスクリームが「もっと大好きになる」を目指したプロジェクト。
事の始まりは、「タカタレムノス」が、建築家・寺田尚樹氏にプロダクトデザインを依頼したこと。既存の延長線上にあった主力のインテリアアイテムを期待してのオファーに、寺田氏が想定外のアイデアを持ち込んだ。それが「アイスクリームスプーン」だった。寺田氏には「高田製作所」が得意とする素材、アルミニウムの特性を活かした合理的な提案だったという確信があった。「タカタレムノス」は、これまでのジャンル・カテゴリーが異なることに加え「なぜスプーン?」という戸惑いと驚きがあったという。
しかしながら、寺田氏の提案は単なるスプーンの製造・販売ではなく、「アイスクリームをもっと大好きになる」というコンセプトメイキングからストーリーづくりまでを含めた上での「アイスクリームスプーン」だった。これに共感した「タカタレムノス」が、鋳物メーカーとしての矜持と情熱をかけ、応えたのだ。
「タカタレムノスしかつくれない」圧倒的なオリジナリティ。
寺田氏は、「アルミニウムの熱伝導率の高さを利用して、手の温度をスプーンに伝えることで凍ったアイスクリームを溶かしながらすくい出す」スプーンを考案した。アイスの木のスプーンをイメージして、まず手描きのスケッチからはじまり、発泡スチロールを使った模型づくり、3Dプリンタを使い樹脂模型で形状を確認した。この試作品を実際に製造できるかどうかは「つくってみないとわからない」ゼロからの試みだった。
インテリア量販店などで売られているカトラリーは、金型を作成しプレス加工により生産するものが大半だ。寺田氏のアイスクリームスプーンは、ふっくらと有機的なフォルムを持ち、まさに鋳造技術が活かされるデザインだった。ただ、職人の手で磨き込むという、惜しみない手間を必要とするものであったが、「タカタレムノス以外では製造不可能」という判断から、デザイナーのアイデアと想いに応えた。初めてのテーブルウエアは、アルミニウムという素材、鋳造・研磨の難易度、すべてがチャレンジングなものづくりだった。
大量の模倣品や他ジャンルの類似品まで生んだ、大ヒットプロダクトに。
これまでにない革新的なプロダクトであっても、マーケットに投入し流通させてはじめて商品として存在する。「15.0%」は、「大人のアイスクリームライフ」を提案するというコンセプトをベースに、寺田氏のデザインはもとより、ネーミングからはじまるブランディング、ロゴやパッケージのデザインに至るまで、一般的な「アイス=子どものたべもの」というイメージとは一線を画すヴィジュアル・アイデンティティをつくり上げた。スプーンは、アイスカップにささったようにパッケージされ、ケーキ箱のようなケースに収められた。自ら商品を語る、シンプルにして饒舌なこのデザインは、パッケージデザインに定評のあるグラフィックデザイナー、粟辻美早氏によるものだ。
「大人が使う」ことを念頭に置いた結果、年齢性別を問わない「アイスを楽しむ」という“ユニバーサルな”コンセプトが伝わり、当初たった3種類のデザインラインアップにもかかわらず大ヒット。
新しいマーケットを開拓したパイオニアの宿命ではあったが、多くのコピー商品を生んだ。「15.0%」は、その独自性を確立するため、それら商品との性能比較試験を行った結果、ふっくらとしたオリジナルデザインが、熱を効率よく伝えて貯めておくことができることを証明した。意匠から生まれた機能が、むしろアイスクリームスプーンとしての性能を高め、簡単にコピーできない強みとなったのだ。
“アイスクリームの真理”に応えた、日本の名作カトラリー。
2016年夏、アイスクリームの “本場”アメリカ のNYマンハッタンに突如出現した「アイスクリーム・ミュージアム」。当時24歳の女性が一人で仕掛けたこのポップアップイベントは、告知なしにもかかわらず、3万枚のチケットがたった5日間で完売し、約20万人の待ちができたことで、話題となった。翌年には規模を拡大し、ビヨンセ&Jay-Z ファミリー、歌手のケイティ・ペリーなど、トップクラスのセレブリティを巻き込み、インスタ映えする“バズ・プロジェクト” となった。事の発端は、仕掛け人の「アイスクリームが大好き」というパッション。寺田氏も「アイスクリームが嫌いな人は、そういないはず」というアイデアから、「タカタレムノス」とともに “名作”スプーンをつくり上げた。
「15.0%」は、アイスクリームに特化したカトラリーという特異なポジションにいながら、シリーズ累計で30万本販売という数字を積み上げた。つまり日本には、アメリカより多くのアイスクリーム好きがいて、『より贅沢に、そして今すぐ』アイスクリームを食べて楽しんでいることの証ではないだろうか(「15.0%」は海外でも販売されてはいるが)。テーブルウエアへのチャレンジは「タカタレムノス」に工場の技術力アップとものづくりの喜びをもたらした。また、世の中で一番硬いといわれる「新幹線で買うアイスクリーム」を「15.0%」のスプーンで食べるという“最高の瞬間”を、開発者・寺田氏にもたらした。
そして日本で「このスプーンを見るとアイスが食べたくなる」という、“シアワセな矛盾現象”を起こしている。