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#05 クリエイターインタビュー自分に正直であるために、時間と心を整える
アーティスト・Ayumi Takahashiさん インタビュー 【前編】

アーティスト・Ayumi Takahashiさん インタビュー 【前編】

あでやかに咲き乱れる花々、カラフルな海の底の世界、絵画の前にひとり佇む女性……。見る者の感性を心地よく刺激するこれらのアートワークは、アーティスト「Ayumi Takahashi」さんによるもの。2024年版「ストレージイット ダイアリー」のなかでも、ひときわ目を引くコラボレーションカバーです。

中国、日本、アメリカ、ドイツなど、世界をフィールドに活躍するTakahashiさんは、現在日本を拠点に活動しています。今回は、そんなTakahashi さんのアトリエを訪ね、創作のこと、日常のこと、時間の使い方や心の整え方についてお話を聞きました。

さて、アトリエの扉を開くと、そこにはTakahashiさんの作品そのもののような、鮮やかな空間が広がっていました!

TEXT:永岡綾 PHOTO:加治枝里子

あなたのなかにもある、どこか懐かしい景色

アトリエには、Takahashiさん自身の作品や、色とりどりの小物が並ぶ
アトリエには、Takahashiさん自身の作品や、色とりどりの小物が並ぶ

— 色がいっぱいで、遊び心のある空間ですね。不思議とリラックスできます。

このアトリエをオープンしたのは2年前の夏です。私の名前Ayumiから“Are You Me Studio”と名付けました。ここにあるのは、私の好きなものばかり。カラフルなもの、そして心地のいいものに惹かれます。

— 2024年版「ストレージイット ダイアリー」のアートワークも、まさにカラフルで心地のいいものですね。キャッチーなのに落ち着きがあって、ファンタジックなのに日常に馴染む、Takahashiさんならではの世界観です。

私が描くモチーフは、植物や生物、何気ない風景など、身近なものがほとんどです。描き手の想像のなかだけにあるものを表現するのではなく、誰のなかにも存在している、どこか懐かしいものを描きたいと思っています。

今のような作風になったのは、大学を卒業する1年ほど前だったでしょうか。あらゆる描き方を試して、最後に、私のなかから自然に生まれる形に辿り着きました。

フラットな表現や人物画の構図などには浮世絵や中国画の要素があり、私のルーツであるアジアの影響が色濃く表れています。一方、色使いにはアメリカやヨーロッパでアートを学んだ経験が見て取れるかもしれません。私の作品には、中国で生まれ育ち、思春期を日本で過ごし、アメリカの大学で学び……そういう私自身の半生が投影されているんだと思います。

アートの心地よさをシェアしたい

2024年版「ストレージイット ダイアリー」のコラボレーションカバー
2024年版「ストレージイット ダイアリー」のコラボレーションカバー

— 「ダイアリーとコラボレーションしませんか?」というオファーを、どのように受け止めましたか?

私がこうしてアートを仕事にしているのは、アートがもたらす心地よさをより多くの人に届けたいからです。アートにまつわるビジネスって、コレクターや富裕層、あるいは一部の「わかる人」のほうを向きがちです。私はそのことにずっと疑問を感じていて。

アートには、人を笑顔にする力があります。だったら、誰もが手の届くアイテムにアートをのせて、みんなとシェアできるほうがいいですよね。そういう意味でも、今回のコラボレーションは、私にとってうれしいことでした。

— どうして「シェアしたい」と考えるようになったのでしょう?

私自身、「自分を見てほしい」という思いで作品をつくっていた時期もありました。でも、誰かに賞賛されるためではなく、自分自身が心から誇りに思えるものをつくり、それが誰かの笑顔につながるほうがずっといい、と気づいたんです。

Takahashi さんが友人と共同創業したティーブランド「Three Gems Tea」のプロダクツ
Takahashi さんが友人と共同創業したティーブランド「Three Gems Tea」のプロダクツ

中国の大連に「BOX MUSEUM」というギャラリーを立ち上げたのも、カリフォルニアに住む友人と「Three Gems Tea」というティーブランドを共同創業したのも、アートの心地よさをより多くの人に届けたい、そして人々の生活のなかに溶け込ませたいという思いからです。

朝、コーヒー片手に言葉をつづる

— 多方面で活躍するTakahashiさんの一日のスケジュールは、どんなですか?

目覚めたらまずコーヒーを淹れ、少しゆっくりとした時間を過ごします。それから、机に向かい、ノートを開いて、短いテキストを書きます。言葉にすることで、日々の生活から得たインスピレーションを自分のなかにストックしているんだと思います。

— スケッチなどの絵的なものではなく、言葉でインスピレーションをストックするんですね。ちょっと意外でした。

スケッチで描きとめていたこともありますが、今は、詩やエッセイなど、言葉にすることが多いですね。自分で読み返すだけで、誰にも見せないものですけど。中国、日本、そしてアメリカで暮らしてきた私にとって、言葉とどう向き合うかは少し複雑な問題です。中国語も日本語も英語も使えますが、やっぱりどれも中途半端で、自分を100%表現することができなくて。だからこそ、私はアートの道に進んだのかもしれません。

でも、本当は言葉が好きなんです。だから、自分の感情や気づいたことを言葉にしていくひとときは、心が整う時間です。そうやって言葉にすることで、自分の考えを軌道修正することもできますしね。

作業の様子

朝のルーティンを終えたら、アトリエに出て、メール対応などの事務作業をします。それからは、ひたすら制作です。描きはじめるとぐっと入り込むほうで、そのままその日の仕事を終えるまで集中して描きつづけます。

手で「書く」のが好き

— さまざまなお仕事を同時進行されていることと思いますが、Takahashiさんの時間管理術とは?

スケジュール管理には、デジタルツールと紙の手帳の両方を使っています。私、デジタルだけだとどうしても実感が持てなくて。手で書くの、好きなんですよね。紙の手帳に書くことで、書いたことが自分のなかに定着するように感じます。

マンスリーページにはおおまかな予定を。未確定なことはいつでも移動できるよう、付箋を活用
マンスリーページにはおおまかな予定を。未確定なことはいつでも移動できるよう、付箋を活用
ウィークリーページ下のメモ欄には、一日を振り返ってのコメントを入れる
ウィークリーページ下のメモ欄には、一日を振り返ってのコメントを入れる

— お仕事の進捗管理にも手帳を使いますか?

手帳に書くのは比較的おおざっぱな予定で、さらにこまかいTO DOは机の上のパッドにリストアップして、作業を終えたら棒線で消していきます。

巻末のメモページで、プロジェクトの進行を管理。ときどきスケッチも
巻末のメモページで、プロジェクトの進行を管理。ときどきスケッチも

プロジェクトの進行管理には、巻末のメモページを使うことも。例えば、今ちょうど漆器をプロデュースするプロジェクトを立ち上げたところで、これからやらなければならないことをフェーズごとに書き出してみました。付箋を使っているので、実際にやる段階になったらマンスリーページに移動して、そのまま予定として活用できます。

手で書くのが好きというTakahashiさん。アイデア用、スケッチ用など、目的別にノートを活用している
手で書くのが好きというTakahashiさん。アイデア用、スケッチ用など、目的別にノートを活用している

自分に正直であるために

— ところで、プライベートな時間はどんなふうに過ごしていますか?

私のようなフリーランスは、とりわけ時間の使い方がすべてだと思います。オンとオフをどう切り替えるか、ということですね。私は、平日の夜と週末は絶対に仕事はしない、と決めています。

最近は、オフの時間はフルートを吹いています。先日京都に行ったときもフルートを持っていって、鴨川の河原で吹きました。気持ちよかったです(笑)。

— そうした時間が、Takahashiさんを輝かせているんですね。

どんなに忙しくても、アウトプットばかり考えるのは危険だと思います。お金にも仕事にもつながらなくていい、何のためでもない時間って、やっぱり必要なんじゃないでしょうか。そうでないと、自分に正直でいられないように思うんです。自分自身に誇りを持つために、自分に正直でありたいですよね。

最も大切なことは「自分に正直であること」。そう語るTakahashiさんの眼差しは、真っすぐで、揺るぎないものでした。時間をマネージメントすることで、何のためでもない豊かなひとときを持つ。それは、慌ただしい毎日のなかで擦り減ってしまわないための、貴重なヒントです。【後編】では、そんなTakahashiさんのルーツに迫ります。

【後編】自分に正直であるために、時間と心を整える
アーティスト・Ayumi Takahashiさん インタビュー

profile

Ayumi Takahashi

米カリフォルニア州のArt Center College of Designを卒業。東京とニューヨークを拠点に活動するアーティスト。Google、L’Occitane、Nike、CocaCola、Starbucksなど、世界中のブランドとコラボレーションし、広告、パッケージ、テキスタイル、書籍などのアートワークを制作している。米国、中国、韓国などのギャラリーで展示するほか、中国にギャラリー「Box Museum」を設立し、ロサンゼルスにてお茶ブランド「Three Gems Tea」も立ち上げている。
WEBサイト:http://www.ayumitakahashi.com/